【廃墟の美術史展】美術作家・野又穫さんのトークショーでメモした、作品に迫る「7つの言葉」

終わりのむこうへ : 廃墟の美術史

渋谷区立松濤美術館で開催されている「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」展が、開催終了に近づいております。

会期中に行われた野又穫さんのアーティストトークに参加しました。
アーティストトークが行われたのは2019年1月19日。貴重な内容だったため、特別編として記事に残しておこうと思います。

「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」展示風景

野又穫

独自に構想した空想建築をモチーフに数々の作品を発表している野又穫さん。
作品は「終わりの向こうへ:廃墟の美術史展」のメインビジュアルにも採用され、その圧倒的なる世界観で鑑賞者を魅了している作家さんです。

「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」ポスタービジュアル
上段:野又 穫《交差点で待つ間に》

アーティストトーク当日、開始時間の30分前から行われた整理券配布には、時間前から並んでいた聴衆希望者が集まり、あっという間に定員分の配布が終了となり、野又さん人気の高さが伺えました。

アーティストトーク『イマジン Imagine』

アーティストトークはセルフトーク形式で、幼少からの作家キャリアをなぞるように話が展開していきました。

野又穫さんは廃墟の美術史展が行われている渋谷からほど近い目黒区の東山エリアに実家があり、幼少時からの暮らしの中で、都会の街の移り変わりを目の当たりにしてきたそうです。
街は常に活気を帯び、自然に触れる機会がほとんど無い高度成長時代の真ん中を経験し、幼少時代からの生活を過ごしていったそうです。

「私の中には「廃墟」という言葉は無く、現在、過去、未来が交錯しています。」

東京の中でも、都市計画の中心地で育った環境だからこそ抱く、都市への眼差しなのかも知れません。
街は常に新しいものが建築中で、工事は繰り返し様々な場所で行われています。

野又 穫《交差点で待つ間に》 2013 年 アクリル、カンヴァス 作家蔵 
撮影:木奥恵三 ©Minoru Nomata

 

「実家が染物屋だったので、周りは常に色彩に満ちあふれていました。和の世界で過ごしたので、西洋的な空間に憧れていました。」

芸大を卒業してからは、広告代理店「マッキャンエリクソン」に就職。デザイン仕事を中心に会社員生活を送りながらも作品の制作活動は続けていたそうです。会社の仕事を終えても自宅で夜中の3時まで絵を描いていくという生活を繰り返していたそうです。

野又 穫《波の花》 2013 年 アクリル、カンヴァス 作家蔵 
撮影:木奥恵三 ©Minoru Nomata

野又穫作品には実在しない空想の建造物や世界が広がっています。

「モチーフは自分の手が届かない、望むものや欲しいものを描いています」

会社を辞めたときから、切り取った写真を隙間無くスクラップブックに貼ったものがアイディアソースになっていったそうです。
脈略無く意味なく埋めていくことによって、過去と現在と未来が含まれていることに気がついていったそうです。

野又 穫《イマジン-1》 2018年 アクリル、カンヴァス 作家蔵 
撮影:木奥恵三 ©Minoru Nomata

 

「絵画の中には仕掛けを含ませています。1つは時間で、もうひとつは1つは気配です。それによって遠回しな表現になっていて、建築にも廃墟にも見えるのかも知れません。」

今でも続けているスクラップブック作業は、切り取った写真を貼ることによってノートとして定着し、しばらく経ってそれらを見直すことで気づいていく何かがあるそうです。

「友人にも聞かれるのですが、昔から人物は描かないです。建物があるので人がいても不思議ではないのですが。」

スクラップブックへ貼る写真には人物を含めないように意識しているそうです。人物が入ると混ざり物が含まれるようでジャマになるからだそうです。

「時間は奥行きと解釈しています。絵画は奥行きを作る事で時間が生まれて、気配や痕跡が残されるのです。『時間+気配』を強く意識しています。」

作品には遠回しな表現を含めることによって、匂いを含ませているそうです。

野又 穫《イマジン-2》 2018年 アクリル、カンヴァス 作家蔵 
撮影:木奥恵三 ©Minoru Nomata

質問のコーナーでは参加者から様々な質問が飛び交い、野又作品への関心の高さが窺えました。

「作品制作にトリックは何もありません。下絵は鉛筆で描き、何度も手直ししながら地道に制作しています。まぁ、大変です、秘密は無いです(笑)。」

アーティストトークのあと改めて作品を鑑賞すると、気配や時間がより一層強く意識されてゾワゾワとする感覚に呼び起こされるような感覚を体感しました。改めて野又穫さんの力量を見せつけられたようです。

なお、本展のタイトル「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」ですが、担当学芸員の話によれば、最初に決まった「廃墟の美術史」を深める言葉を探していた中、2010年に群馬県立近代美術館で行われた野又穫さんの個展図録の章題「After the Future」からインスピレーションを得て、“終わりのむこうへ”と付けられたそうです。

本展の会期は2019年1月31日まで。是非ご覧頂きたいと思います。

概要

「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」
会場:渋谷区立松濤美術館
会期:2018年12月8日(土)~2019年1月31日(木)
入館料 一般500(400)円、大学生400(320)円、
高校生・60歳以上250(200)円、小中学生100(80)円
※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料
※土・日曜日、祝休日及び夏休み期間は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者及び付添の方1名は無料
休館日 12月10日(月)、17日(月)、25日(火)、12月29日(土)~1月3日(木)、1月7日(月)、15日(火)、21日(月)、28日(月)
(会期中一部展示替えあり)
主催 渋谷区立松濤美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
協賛 ライオン、大日本印刷、損保ジャパン日本興亜

トークショー

1月19日(土)
野又穫氏(出展作家、女子美術大学教授)
『イマジン Imagine』
午後3時~4時(開場:午後2時30分) 定員80名
*午後2時30分より1階ロビーにて整理券配布