【企画展】廃墟に魅了される理由とは〜「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」@松濤美術館

終わりのむこうへ : 廃墟の美術史

松濤美術館で開催されている「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」展にお伺いしました。会場は渋谷駅から徒歩で約15分の松濤美術館です。
松濤美術館の最寄り駅は京王井の頭線の神泉駅徒歩5分なのですが、本展は渋谷駅から歩いてくるのがオススメのルートです。往復ではなくとも、行きなり帰りなりに渋谷駅の雑踏をくぐり抜けてくることに意味を持つ展覧会なのです。その理由は記事後半に記載しました。

会場の松濤美術館外観

本展は「廃墟」と言う言葉でくくられる絵画作品を集めた展覧会です。
日本国語大辞典によると「廃墟」の意味は「建物・市街などの荒れ果てた跡」とありますが、本展の展示作品は廃墟についての多様な芸術的解釈を楽しめる作品がラインアップされています。

本展の構成は次のような4章構成になっています。

  展示構成   

I 章 絵になる廃墟:西洋美術における古典的な廃墟モティーフ
II章 奇想の遺跡、廃墟
III章 廃墟に出会った日本の画家たち:近世と近代の日本の美術と廃墟主題
IV章 シュルレアリスムのなかの廃墟
V章 幻想のなかの廃墟:昭和期の日本における廃墟的世界
VI章 遠い未来を夢見て: いつかの日を描き出す現代画家たち

第一会場・2階

松濤美術館の設計は1階が受付になっていますが、展示室は2階と地下1階という変則なセッティングです。順路は2階から鑑賞するルート設定になっております。

2階フロアの展示室

I章 絵になる廃墟:西洋美術における古典的な廃墟モティーフ

左: シャルル・コルネリス・ド・ホーホ《 廃墟の風景と人物》
中: ユベール・ロベール 《 ローマのパンテオンのある建築的奇想》
右: リチャード・ウィルソン《 キケロの別荘》

リチャード・ウィルソン《キケロの別荘》

アシル=エトナ・ミシャロン《廃墟となった墓を見つめる羊飼い》

II章 奇想の遺跡、廃墟

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《『ローマの景観』より:シビラの神殿、ティヴォリ(背後から)》

2階入り口の写真撮影可能コーナー〜拡大しても劣化しない高クオリティの細密画

III章 廃墟に出会った日本の画家たち:近世と近代の日本の美術と廃墟主題

不染鉄《廃船》

第二会場・地下1階

 

IV章 シュルレアリスムのなかの廃墟

ポール・デルヴォー《海は近い》

展示風景〜IV章 シュルレアリスムのなかの廃墟

左:ポール・デルヴォー《見者》右:ポール・デルヴォー《円天井》

ルネ・マグリット《青春の泉》

ジョルジオ・デ・キリコ(工房)《吟遊詩人》

V章 幻想のなかの廃墟:昭和期の日本における廃墟的世界

展示風景〜V章 幻想のなかの廃墟:昭和期の日本における廃墟的世界

北脇昇《章表》

浜田浜雄《ユパス》

左:大沢昌助《真昼》 今井憲一:《バベルの幻想》

VI章 遠い未来を夢見て: いつかの日を描き出す現代画家たち

麻田浩《旅・卓上》

展示風景〜VI章 遠い未来を夢見て:いつかの日を描き出す現代画家たち

元田久治《Foresight:Shibuya Center Town》

大岩オスカール《動物園》

大岩オスカール《トンネルの向こうの光》

元田久治

元田久治さんの作品は細密画なのですが柔らかさがあって好きな作家さんです。

元田久治《Indication : Diet Building, Tokyo 3》

元田久治《Indication : Diet Building, Tokyo 3》※部分

渋谷の交差点を退廃的に描いた作品《Indication:Shibuya Center Town》。
この作品を見てから渋谷駅の雑踏に入ると面白い感覚が楽しめます。想像力をフル活動させてマイナス思考をイメージすると、今ここにある時間をしっかりと生きようという思いに至りました。受け取るイメージは人それぞれでしょうが、日々変容する私たちが住む街や生活環境に思いを巡らせることでしょう。

元田久治《Indication:Shibuya Center Town》

元田久治《Foresight : Tokyo station 3》

野又穣

野又穫さんの作品は、薄いブルーを基調とした色彩で、不思議な空間を想像します。

野又穫氏の作品展示

野又穫さんのマチエールが大好きで、接写させていただきました。写真では限界がありますが、とっても優しくて柔らかくて触りたくなる筆感です。

野又穫氏の作品 ※部分接写

野又穫氏の作品 ※部分接写

以前拝見した個展の模様をまとめた記事は下記リンクよりご確認下さい。

ピラネージをオマージュした野又穫作品

野又穫さんの作品《交差点で待つ間に -Listen to the Tales-》は、2013年開催の「空想の建築ーピラネージから野又穣へー」展に寄せて描いた作品です。

ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ《古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点》『ローマの古代遺跡』より 1756年刊 町田市立国際版画美術館

上の作品の左側部分に描かれているのはキツネです。

《古代アッピア街道とアルデアティーナ街道の交差点》『ローマの古代遺跡』※部分

そして野又穣さんの作品《交差点で待つ間に -Listen to the Tales-》の左下部分には渋谷の象徴的なアイコン「忠犬ハチ公」が他の犬たちと一緒に向きを変えて鎮座しています。

野又穫《交差点で待つ間に -Listen to the Tales-》

野又穫《交差点で待つ間に -Listen to the Tales-》 ※部分

野又穫さんのアーティストトークも盛り上がりました。

古代ローマと現代の渋谷、交差点という1つのモチーフが、「廃墟」というまとまりで時間を超えてシンクロしているようで、私たちが過ごしている現在時間の流れも一緒に感じさせる作品です。本展タイトルにもある「終わりの向こう」へどんどんと流されていくようです。

廃墟とは、冒頭に記した「建物・市街などの荒れ果てた跡」もそうですが、「避ける事が出来ない時間を表現している」と言うことです。私たちが廃墟に魅せられるのは、同じように避けられない時間によって支配されている日常生活があるからこそなのかも知れません。そんなことを考えながら渋谷の交差点を通り過ぎて駅に向かうのでした。

※展示リストはこちら

概要

「終わりのむこうへ : 廃墟の美術史」
会場:渋谷区立松濤美術館
会期:2018年12月8日(土)~2019年1月31日(木)
入館料 一般500(400)円、大学生400(320)円、
高校生・60歳以上250(200)円、小中学生100(80)円
※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料
※土・日曜日、祝休日及び夏休み期間は小中学生無料
※毎週金曜日は渋谷区民無料
※障がい者及び付添の方1名は無料
休館日 12月10日(月)、17日(月)、25日(火)、12月29日(土)~1月3日(木)、1月7日(月)、15日(火)、21日(月)、28日(月)
(会期中一部展示替えあり)
主催 渋谷区立松濤美術館、読売新聞社、美術館連絡協議会
協賛 ライオン、大日本印刷、損保ジャパン日本興亜

●出品作家:
シャルル・コルネリス・ド・ホーホ
ヨハネス・ライシャー
リチャード・ウィルソン
ジョヴァンニ ・バッティスタ・ピラネージ
ユベール・ロベール
歌川豊春
亜欧堂田善
トマス・ガーティン
ジョン・コンスタブル
ジョン・セル・コットマン
ジョン・リネル
アシル = エトナ・ミシャロン
ウジェーヌ・イザベイ
アントニオ・フォンタネージ
工部美術学校生徒
百武兼行
アンリ・ルソー
松岡寿
藤島武二
澤部清五郎
ジョルジオ・デ・キリコ (工房)
小野竹喬
不染鉄
ポール・デルヴォー
ルネ・マグリット
岡鹿之助
北脇昇
大沢昌助
中尾彰
矢橋六郎
難波田龍起
伊藤久三郎
今井憲一
山口薫
浜田浜雄
槫松正利
池田龍雄
麻田浩
野又 穫
大岩オスカール
元田久治