【Reborn‑Art Festival 2019】地域の未来を示唆する〜アート・音楽・⾷の総合芸術祭

Reborn‑Art Festival 2019

Reborn‑Art Festival 2019(RAF2019)に行ってきました。

Reborn‑Art Festival (リボーンアート・フェスティバル)は、2017年にはじまり、今回が2回目となるアート・音楽・⾷の総合芸術祭です。
東日本大地震で大きな被害を受けた宮城県の石巻地域で開催される本フェスティバルは、音楽プロデューサーでもある小林武史さんを中心にした里山型の芸術祭です。RAF2019は、エリア毎に担当する7組のキュレーターとともに、約70組のアーティストたちが作品を発表しています。

震災の被害を受けた石巻地域は、震災から既に8年の歳月を経ており、この地に立つと既にハード面での復興は終わりに近づいている印象を受けました。本芸術祭によるアート作品や関連の活動を通じて、活力のある地域作りに進んでいる印象を受けました。

石巻駅前エリア

 

石巻駅 駅前エリア

エリアテーマ「海へのアート=リチュアル」
キュレーター:中沢新一

海に向かって開かれた心を日本人に取り戻すために、黒潮の雄大な流れを石巻に呼び戻すアート=リチュアルが出現します。
黒潮の発生場所にほど近いシンガポールからお呼びしたザイ・クーニン氏は、自らも海民の子孫として、海洋的自然と一体になった想像力を駆使して、人間に失われかかっている心の野生を取り戻すアート=リチュアルを実践してきた人です。
「私はアーティストである前に一匹のオニでありたい」と語っているザイ氏は、海の霊力に深い感謝の念を抱いてきた人間の根源的な思いを、ダイナミックなアートに造形してくれるでしょう。

ザイ・クーニン《茶碗の底の千の眼》2019年 ※部分

会場でギターの弾き語りを披露するザイ・クーニン氏

市街地エリア

市街地エリア

エリアテーマ:街のマンガロードとアートロード
キュレーター:有馬かおる

石巻には、石ノ森萬画館があり、マンガロードがあります。
今回の展示は、そこにアートロードを加える構想です。
前回リボーンアート・フェスティバル 2017 の私の展示のコンセプト
(リボーンが終わった後も石巻のアートシーンの継続させる)を引き継いでもいます。
そのためキュレーションの中心となるのは石巻の作家です。石巻の作家を集めます。
種を蒔き、育て、新しい芽が出るのを待ちます。
今回の展示で早くも花ひらく作家が出てくるかもしれません。
そして、新たなアートスペースも誕生し、点を線(ロード)にします。
また、「マンガ的発想」が街のコンセプトの石巻には、石ノ森章太郎のキャラクターが町中にあります。
これは石ノ森章太郎世界観の拡大です。
この石巻にとって「マンガ」とは、「マンガ的発想」とは何かを考えます。

 

青青木俊直 《クラスルーム ver.A》 (ディレクション:オザワミカ)

桃浦エリア

久住有生《淡(あわ)》2019年
桃浦エリア〜草間彌生《新たなる空間への道標》2016年
Courtesy of Ota Fine Arts, Tokyo / Singapore / Shanghai ©Yayoi Kusama
SIDE CORE《Lonely Museum of Wall Art》2019年

エリアテーマ:リビングスペース
キュレーター:小林武史

“リビングスペース”とは、居間/居場所/居住空間。
過去から未来へ向けて人々が生きる場であり、想いや記憶はそこに宿り、そして留まります。
これまで自然と密接に暮らしてきた牡鹿半島の村々ではその居住空間に甚大な変化が起きました。
震災後にできた大きな防潮堤は安寧の確保と景観の喪失を同時にもたらしています。
このように急激な変貌を遂げながらも未だ強烈に過去の跡/記憶も残す牡鹿半島/桃浦の場で、現在進行形での「リビングスペース=生きる場」とは何かを探るアートプロジェクト。
ここでは、唯一のオフィシャル宿泊施設であるもものうらビレッジや旧荻浜小学校の廃校舎を中心とした日中のアート展示とともに、オーバーナイトイベントを開催しています。

村田朋泰《White Forest of Omens》

SIDE CORE(BIEN、EVERDAY HOLIDAY SQUAD、リヴァ・クリストフ、森山泰地)《Lonely Museum of Wall Art》

荻浜エリア

荻浜エリア全景
名和晃平《White Deer(Oshika)》
野村仁《Analemma-Slit:The Sun, Ishinomaki》 
photo by NAKANO Yukihide

エリアテーマ:プライマル エナジー – 原始の力
キュレーター:名和晃平

漁港から海沿いの山道を歩いていくと、貝殻のかけらで白くなった浜辺があり、
小高いところに《White Deer(Oshika)》が立っています。
近くには戦時中に日本の軍隊が魚雷を格納するために急いで掘ったとされる洞窟があり、
暗がりの奥に赤く燃え続ける「炎」や青く光る「海」の断片が見えます。
浜辺をさらに進むと、流木が折り重なったところに斜めに突き出した老木があり、
その幹に菌糸を巻きつけて寄生する大きな「キノコ」が先端に立ち、飄々
と風に揺れています。太古から存在する普遍的なイメージが、
荒涼とした風景に溶け込み、原始的なエネルギーに満ちた場になるでしょう。

名和晃平《Flame》photo by NAKANO Yukihide

野村仁《Analemma-Slit:The Sun, Ishinomaki》photo by NAKANO Yukihide

小積エリア

小積エリア〜鹿の解体処理施設「フェルメント」

エリアテーマ:鹿に導かれ、私たちを見るとき
キュレーター:豊嶋秀樹

リボーンアート・フェスティバル2017のキーワードでもあった「鹿」。
RAF2019 では、小積エリアにある鹿肉処理場を取り巻くように、
アーティストたちによる小さな集落が出現します。
展示では、象徴的存在(または比喩的存在)としての「鹿」に導かれ、
自然界側の物語から見える世界をめぐります。
私たちは、「鹿」を道先案内人に「私たちではない」側の目線や意識へと旅します。
展示を見終え、再び私たちの世界に戻ったとき、
それはもとの私たちの世界ではないように感じるでしょう。
それは、鹿たちの世界に含まれた私たちの世界というべきものなのかもしれません。

淺井裕介《すべての場所に命が宿る@牡鹿のスケッチ》

志賀理江子 《Post humanism stress disorder》 2019年

鮎川エリア

鮎川エリア〜島袋道浩《白い道》

エリアテーマ:目をこらす 耳をすます
キュレーター:島袋道浩

8年前の大地震で、とてつもなく大きな変化に見舞われた牡鹿半島の鮎川は、
現在行われている復興工事の中で、またもうひとつの大きな変化の時期を迎えています。
以前あったのとは全く違う形に作られようとしている町。
そんな中でもなくしてしまってはいけないもの、忘れてはいけないものがあると思います。
未来に残し、未来の人々に届けなくてはならないものがあります。そこでアートの出番です。
じっと目を凝らさないと見えないもの。じっと耳を澄ませないと聞こえないもの。
慌ただしい時間の中では見落としてしまうようなもの。面倒になって捨ててしまうようなもの。
鮎川に滞在して、鮎川のことを思いながら、
そんなものやことを見つけてこられるアーティストたちに今回来てもらうことにしました。
「いのちのてざわり」という言葉の大切なところは「てざわり」の「ざ」にあると思います。
「てさわり」ではないのです。生きていることの証しの濁音の世界。重なりの世界。
それを確かめ、つかまえたいと思っています。

 

吉増剛造《詩人の家》

石川竜一 《掘削》 2019年

網地島エリア

網地島エリア 〜バリー・マッギー with スクーターズ・フォー・ピース《無題》

エリアテーマ:ネクスト・ユートピア
キュレーター:和多利恵津子・和多利浩一

今回初めて登場する網地島は牡鹿半島から船で15分、人口約400名、周囲20キロの小さな島です。
そしてここは、手つかずの雄大な自然と、南方系の穏やかな雰囲気から東北のハワイと呼ばれてきました。
アイヌ語に語源を持つ「ドワメキ崎」からは神の島「金華山」の絶景が望めます。
この島でなければ表せないこと、それはあの惨劇を乗り越えた「ネクスト・ユートピア」を作ること。
国内外からアーティストたちが集合し、地上と天空のはざまを表現しました。
港に着く船を迎える巨大壁画、古墳を持つ庭、
島の家々から集められた思い出を売る雑貨屋、植物の呼吸を収めた映像他。
この手で未来を作るために、「ネクスト・ユートピア」はもう私たちの必需品なのです。

 

まとめ

Reborn-Art Festival 2019は、各エリア間のロケーションは分断されていて、全ての場所を回ることにかなりの時間と労力が伴うことでしょう。
作品の展示エリアは石巻駅前を含めて、都会のような場所では有りません。空調の効かない展示会場も多く、公共交通の便も決して良くはありません。都心の美術館を巡るような体験とは異なることを認識しておく必要がありますが、フィジカル的体験を通じてこの地域を感じることが、本芸術祭の大きな意義のひとつなのかも知れません。

被災地石巻の芸術祭であり、「震災」と言う大きな存在に思いを馳せる体験となりました。日常から遠いこの地を訪れることで、特別な意識を持ってアートに向き合う事なりました。関わっている人々の思いや、作品の持つ力を通じて、心が揺らぎ、今一度震災について考える機会となりました。

アートの力でこの場所が生まれ変わり、活力を取り戻していくような取組になることを願って止みません。

概要

Reborn-Art Festival 2019
会期:2019年8月3⽇(⼟)〜~9月29日(⽇) <58⽇間>
会場:牡鹿半島、網地島、石巻市街地、松島湾 (⽯巻市、塩竈市、東松島市、松島町、女川町)
※⽔曜⽇休祭予定<8⽉14日(⽔)およびイベント開催⽇は除く。> ※網地島エリアは8月20⽇(火)より開催
主催:Reborn‑Art Festival実⾏行委員会、一般社団法人APバンク
共催:宮城県、⽯巻市、塩竈市、東松島市、松島町、⼥川町、株式会社河北新報社、東日本旅客鉄道株式会社 仙台⽀支社、ヤフー株式会社
平成30年度文化庁 国際文化芸術発信拠点形成事業
協賛:株式会社木下グループ、キリン株式会社、住友林業株式会社、株式会社TSUTAYA、株式会社Tポイント・ジャパン、株式会社環境ステーション、GRAND MARBLE KYOTO、株式会社日立システムズ、三井不動産株式会社、株式会社LIXIL
連携事業:あいちトリエンナーレ2019、三陸防災復興プロジェクト2019、瀬戸内国際芸術祭2019