【あいちトリエンナーレ2019】注目作家を中心にご紹介〜情の時代 Taming Y/Our Passion

あいちトリエンナーレ2019〜情の時代 Taming Y/Our Passion

あいちトリエンナーレは、2010年から3年ごとに開催されている国内最大規模の国際芸術祭です。
4回目となる2019年は、国内外から90組以上のアーティストを迎えました。国際現代美術展のほか、映像プログラム、パフォーミングアーツ、音楽プログラムなど、様々な表現を横断する、最先端の芸術作品が揃いました。

オープニングパーティで挨拶する津田大介芸術監督

不幸にも、「表現の不自由展・その後」の中止によって、海外作家を中心とした展示作品の中止が重なり、トリエンナーレの開催に水を差す格好になりました。しかし、多くの作家による素晴らしい作品に支えられ、本芸術祭は高いレベルにあると感じました。
本記事では、会場別にピックアップしてご紹介いたします。

愛知芸術文化センター

あいちトリエンナーレ会場の中心地は愛知芸術文化センターです。
展示フロアは主に8階と10階で、一定の順路が定められていました。

愛知県美術館(10F)

エキソニモ

エキソニモはニューヨーク(米国)拠点に活動する千房けん輔と赤岩やえによる2人組のアート・ユニット。
本展の玄関口とも言える、愛知県美術館の入口すぐに展示されていました。

エキソニモ《The Kiss》とエキソニモの2人

芸術監督の津田大介さんは、2018年に開催された水戸芸術館のグループ展でエキソニモの作品を見て、早くからアプローチしていたそうです。

ウーゴ・ロンディノーネ

スイス生まれで、ニューヨークを拠点とするウーゴ・ロンディノーネさん。広いフロアスペースに展開された作品《孤独のボキャブラリー》は、まるで生きているかのような佇まいが印象的な、ピエロの彫刻45体によるインスタレーションです。今回のあいちトリエンナーレ2019のメインヴィジュアルにも採用されています。

ピエロにはそれぞれ、彼らの行う行為から名前がつけられています。
佇む/呼吸する/寝る/夢見る/目覚める/起き上がる/座る/聞く/見る/考える/立つ/歩く/おしっこする/シャワーを浴びる/着る/飲む/おならする/うんちする/読む/笑う/料理する/嗅ぐ/味わう/食べる/掃除する/書く/空想する/思い出す/泣く/居眠りする/感動する/感じる/うめく/楽しむ/浮かぶ/愛する/望む/願う/歌う/踊る/落ちる/罵る/あくびする/脱ぐ/嘘をつく

1人の人間が、人生のとある一日、その24時間で繰り返し行っている家の中での孤独な振る舞いを示しています。

ウーゴ・ロンディノーネ 《孤独のボキャブラリー》 2014年〜2016年

ウーゴ・ロンディノーネ 《孤独のボキャブラリー》

どのピエロの顔もうつむき加減で、一体ずつ顔を覗き込むように見て回るような形になりました。
表情を見つめているうちに、命が宿っているように見えて来ます。
どこか自分にも似ているようなピエロもいたりして、複雑な感情が交錯していきました。

石場文子

石場文子さんの写真作品は絵画的な表情を持っていて、視覚が揺さぶられるような鑑賞体験が得られます。

石場文子さん〜あいちトリエンナーレ会場にて撮影

作品画像を含めた記事は、下記にまとめております。

伊藤ガビン

映像作品が多かった今回のあいちトリエンナーレ2019でしたが、伊藤ガビンさんの作品は遊び心が詰まったプロジェクションマッピング作品でした。

伊藤ガビンさんの作品《モダンファート 創刊号 特集 没入感とアート あるいはプロジェクションマップングへの異常な愛情》2019年

空いている時間帯での鑑賞体験は心地良い没入感が感じられました

混雑時は20人ごとに鑑賞する入れ替え制でしたが、空いているタイミングは360度映像に包まれ、とても心地良かったです。

愛知県美術館ギャラリー(8F)

今村洋平

シルクスクリーンプリントを「1万回繰り返す」というバカみたいな(褒めてます)作品を制作している今村洋平さん。
平面と立体の境界線を問いかけます。

今村洋平《peak》2019年

下記の記事にまとめております。

スチュアート・リングホルト

作品《原子力の時計》は両面鑑賞出来る作品です。

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10億年後には、地球の自転速度が遅くなり、1日が34時間になるそうです。
《原子力の時計》は、1日の長さが変わっている未来でも動き続ける時計です。

表現の不自由展・その後

「表現の不自由展・その後」については、プレス内覧会時に鑑賞しました。
事前の情報が届いてなかったため、作品を見たときのインパクトはありましたが、「『表現の不自由展・その後』を公立美術館で行うことによって、物議を醸すことに意義があると思った」という意図は、公開後すぐに大きな議論に発展し、周知の展開に繋がっていきました。

キム・ソギョンとキム・ウンソン《平和の少女像》の展示コーナー

「表現の不自由展・その後」の展示中止に伴い、自作の展示の一時中止等の申し出があったアーティストは12組に及んでいます。

作家による抗議の表明は広がっていきました。

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)「日常演習」

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)の《日常演習》 は何度も繰り返してみてしまいました。
現実なのか、CGなのか、一瞬で判別できませんが、台湾で1978年より続く防空演習をドローンで捉えた実写映像です。

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)《日常演習》 2018年

台北の最も賑やかな通りを含む5つの場所が無人となった風景は、一見安定した平和な街の日常に潜む戦争の脅威について私たちに考えさせます。

また、《トゥモローランド》は、遊園地が突然爆破され、スローモーションで破壊の様子が再生されます。ゆっくりとその様子が映し出される中で、突然逆再生して元の風景に戻ります。一瞬にして何事もなかった風景に戻る様子は、現実感の無い夢のような印象を与えます。

袁廣鳴(ユェン・グァンミン)《トゥモローランド》2018年

パンクロック・スゥラップ

2010年にマレーシアで結成されたアーティスト集団「パンクロック・スゥラップ」。
「パンクロック」と「農民の休憩小屋」を意味する語の組み合わせです。

作品は1点、《進化の衰退》という横長の大きな木版画です。
右から左にかけて展開されるモチーフは、昆虫が描かれていますが、人類の急激な繁栄をシニカルに批判しているような様子が描かれています。大きな作品でありながら、緻密な表現がたくさん含まれていて、時間を掛けて鑑賞することが出来ました。

パンクロック・スゥラップ《進化の衰退》2019年

パンクロック・スゥラップの皆さん ※アーティスト、音楽家、社会活動家など約10名のメンバーで構成

愛知県美術館(12F)

ジェームズ・ブライドル

愛知県美術館の11F展望回廊から見下ろした地面に描かれた白いラインは、実在する無人偵察機「RQ-4 グローバルホーク」の実物大シルエットの作品《ドローンの影》です。

機体は、横幅が約35m、長さが約14mあります。 イラクやアフガニスタンで実戦運用され、日本の自衛隊にも3機の導入が予定されています。

ジェームズ・ブライドル《ドローンの影》2019年

見えにくい事柄を可視化したうえで、私たちに問いかける作品です。

名古屋市美術館

sholim

「GIF」を用いて、人間の顔や風景が怪しく変形する数秒間のループ映像を制作するsholim。
作品はソーシャルメディアで発表され、「デジタル・シュルレアリスム」と称されるその奇想の世界観が高い評価を受けています。

YouTubeのsholimチャンネルでも幾つかの作品が紹介されていますが、こちらのサイトでも作品鑑賞が可能です。

今津景

海外、インドネシアを拠点としながら、精力的な活動と日本での展示機会の多い今津景さん。
大きな平面作品に加え、立体、映像を含めたインスタレーション作品です。
タイトルの通り、進化について考えさせられる作品でした。

今津景《生き残る》2019年 キャンバスに油彩、ビニールにデジタルプリント、映像インスタレーション

今津景《生き残る》2019年

四間道・円頓寺

鷲尾友公

特設ステージ作りました。壁画は愛知を拠点にするアーティスト鷲尾友公さんの巨大な壁画《MISSING PIECE》。
円頓寺商店街「長久山円頓寺」の駐車場に描かれていますが、その下には特設ステージを設置して、音楽ライブ。などが行われる場所でもあります。

鷲尾友公《MISSING PIECE》2019年

弓指寛治

弓指寛治さんの展示「輝けるこども」は、2011年4月18日に栃木県鹿沼市で起きた、通学中の児童の列にクレーン車が突っ込み、6名の児童が死亡した事件がテーマになっています。
交通事故で犠牲になった子供たちを中心に据えた、弓指寬治さんの丁寧な取材と作品によるアート作品です。

弓指寛治《輝けるこども》2019年

作品画像を含めた記事は、下記にまとめております。

岩崎貴宏

四間道エリアにある伊藤家住宅は、清洲越の商家で享保7年(1722年)頃に建てられた愛知県指定有形文化財で、名古屋市景観重要建造物でもある貴重な建造物です。四間道と円頓寺界隈は、戦中の空襲で焼失した名古屋地区の中にあって、焼け残った貴重な場所であります。
その中で展示されたのが、岩崎貴宏さんの《町蔵》。炭素材を使って名古屋の城下町を表現した作品です。

岩崎貴宏《町蔵》2019年

作品画像を含めた記事は、下記にまとめております。

豊田市美術館エリア

高嶺格

高嶺格さんの作品は、廃校(旧豊田東高校跡)のプールの底をはぎ取って垂直に立てた作品《反歌》です。

高嶺格《反歌:見上げたる 空を悲しもその色に 染まり果てにき 我ならぬまで》2019年 
Photo: Takeshi Hirabayashi

作品タイトルは、作品の一部になっているような歌になっています。
圧倒的な圧を感じる作品です。

小田原のどか

小田原のどかさんの代表的な作品《↓》。
長崎の爆心地に建てられていた矢形標柱をモチーフにした作品です。
戦争の爪痕を、ネオンサインとして現代に甦らせている作品です。

小田原のどか 《↓ (1946-1948) 》2011年〜2019年 Photo: Takeshi Hirabayashi

アンナ・フラチョヴァー Anna Hulačová

チェコスロバキア出身の女性アーティスト、アンナ・フラチョヴァーさん。
顔に表情はなく、アイロンとシェーバーに置き換えられた作品でした。

アンナ・フラチョヴァー 《ミッションからの帰還》2018年 Photo: Takeshi Hirabayashi

まとめ

「情の時代」とされた「あいちトリエンナーレ2019」のタイトルの通り、制作者側はいろんな「情」を表現し、私たち鑑賞者側の「感情」を揺さぶる作品の数々がありました。

「表現の不自由展・その後」の騒動によって、偏った「情報」に身を流されるようになりがちですが、たくさんの作品を目の前にすると、素晴らしい国際芸術展として感じることが出来るはずです。

是非とも現地に赴いて自分自身の目で鑑賞し、本物の芸術作品を味わいながら、アートのこれからを考えてみて頂きたいと思います。

概要

あいちトリエンナーレ2019
テーマ:情の時代(Taming Y/Our Passion)
芸術監督:津田大介(ジャーナリスト/メディア・アクティビスト)
会期:2019年8月1日(木)~10月14日(月・祝)[75日間]
主な会場:
愛知芸術文化センター
名古屋市美術館
名古屋市内のまちなか(四間道・円頓寺地区など)
豊田市(豊田市美術館及びまちなか)
主催:あいちトリエンナーレ実行委員会