【アーティスト】覆面芸術家バンクシー(Banksy)とは何者なのか?※ネタバレ有り

Banksy(バンクシー)

2018年10月5日、有名なオークション「サザビーズ」で覆面アーティストとして有名なイギリス人アーティスト「Banksy(バンクシー)」が仕掛けた作品へのギミックが話題になっています(下記動画参照)。

この作品《Girl With Balloon》は今回のオークション時に140万ドル(約1億5000万円)で落札された作品。
落札と同時に額内部に仕込まれた装置が作動し、作品を切り刻んでいく様子が収録されています。

なんて面白い仕掛けなんでしょう!

《Girl With Balloon》2006年〜動画内テロップの「Few Yeras Ago」は、シュレッダーを仕込んだ時期で作品の制作時期ではありません。

巷ではたくさんの憶測が飛び交っていて、バンクシーの狙い通りに話題が拡散しているようです。
曰く、「オークション関係者も共犯だ」「シュレッダーの行為までが作品である」「本人が会場にいてスイッチを押したらしい」・・・などなど。

この様子はニュースとして一斉に拡散され、日本でも一時、グーグル検索ランキングの1位を獲得したほどです。

バンクシーとは何者か?

それでは、瞬時にして注目を集めた当事者本人「バンクシー」とは何者なのでしょうか?
「覆面アーティスト」ですから、公にされている事実はありませんが、下記の7つにポイントをまとめてみました。
※筆者の独自のまとめとコメントになりますのでご留意下さい。

  1. イギリス人芸術家であること
  2. 覆面で活動している
  3. 主に屋外、ストリートなどで活動していること
  4. WEBやSNSを巧みに使っている
  5. 同時代的社会問題を取り上げることが多い
  6. 作品の価格は高騰している
  7. 美術関係者からは嫌われ者

NTV系朝の情報番組「スッキリ」でも特集〜2018年10月9日放送

それでは各項目について整理してみます。

【1】イギリス人芸術家である

バンクシーの公式サイト「banksy.co.uk」で分かるように、「UK」のドメイを使っていることで自らの本籍を表しています。公にしているプロフィールがありませんから、これを持ってイギリス出身のアーティストと言うことになります。

【2】覆面で活動ー実名や素顔は隠されている ※ネタバレ有

Banksyは覆面で活動しており、実名や素顔も非公表です。

しかし、最近ではBanksyの行動を分析し、偶然にも通りがかった通行人に撮影された写真によって、ほぼその実像は解明されています。

Banksyの正体、それはイギリスの人気音楽ユニット「マッシヴ・アタック」の中心人物「ロバート・デル・ナジャ(通称:3D)」とする説で確定のようですね。1965年生まれ。

ちなみにマッシブアタックの有名な楽曲〜コクトーツインズのエリザベス・フレーザーをボーカルに迎えて作られた楽曲はこちらです。

【3】主に屋外、ストリートなどで活動している

街中の壁を使って描かれた作品をめぐっては色々な人の思惑が交差して話題にされますが、「参加者自身もアートの一部」というような作品も多く残しています。
ニューヨークに赴き1ヶ月間にわたってゲリラ活動するなど、バンクシーは世界各国でゲリラ的に作品制作する手法を取っています。ニューヨークでの活動は、ストリートとインターネットが相互で機能した「宝探し競争」になりました。

もちろんストリートでのペインティング行為は「違法」という形で扱われる場合が多いのですが、地元ロンドンなどでは「観光資源」として、政府がある程度許容するスタンスを示しています。

【4】WEBやSNSを巧みに使っている

バンクシーはストリートの活動を映像化し、WEBに展開していくことで、広くその活動を認知させることに成功しています。特に彼のInstagramはファンが常に動向を注視しているメディアとして多くのフォロワーを抱えています。

「作品実物にサインしない」ことを基本にしているバンクシーですが、自身の作品としてアナウンスするのは主にInstagram。インスタグラムの写真やメッセージを通じて、自分の作品告知や紹介を行う使い方が1つあります。
※ストリートで生まれた作品は、しばしば一般人の所有物として扱われますが、サインをしない理由を見つけるとすれば、それらがオークションなどで転売されることを嫌っているからなの知れません。

また、ストリートの行為は、しばしば動画として収録しYouTubeで公開します。リアルの映像もそうですが、フェイク加工された動画も同じく扱われ、世界中に発表されます。つまり、作品制作の媒体として使用されているのです。
今回のシュレッダー騒動も、ネット社会だからこそ注目されたことに疑いの余地がありません。バンクシーとこれらは切っても切れない関係にあるのです。

【5】同時代的社会問題を取り上げることが多い

戦争、紛争、政治、格差社会、差別、動物虐待・・・、力の不均衡や構造的な暴力など現代社会が抱える様々な問題に対して光を当てることがBanksyの制作スタイルです。

筆者がバンクシーを最初に意識したのが、こちらの動画「Rebel Rocket Attack(反政府軍のロケット弾攻撃)」でした(2013年公開)。

イスラム系兵士がロケット弾を発射し、標的に命中する様子がリアルに映像化されていますが、その後落下してきたのは、なんとディズニーアニメでおなじみの「ダンボ」。
映画「ダンボ」は第2次世界大戦中に公開されていた作品であること、アメリカ海軍の暗号で使われていたこと、「ダンボ作戦」は遭難した水平や飛行士を救出する作戦だったことが使われていたこと、などから引用されたようです。戦争とディズニー作品を掛け合わせる発想がお見事ですね。

今回の「シュレッダー騒動」も高額で取引されているオークション市場や美術業界を揶揄するような意味合いがあったのかも知れません。しかし、一般的には「シュレッダーに切り刻むことで話題化し、作品の価値がさらに上昇」という見方が多いようです。バンクシーの狙いがどこにあったのか、思惑通りに進まなかったのか、単なる話題作りだったのか、真意を正確に掴むことはできませんが、話題作りだけには間違いなく成功しています。

【6】作品の価格は高騰している

冒頭のシュレッダー作品は今回のオークションで1.5億円の値を付けたのですからかなり高値の市場を作っていますね。

以下の動画は、バンクシーがニューヨークのセントラルパーク付近で実際に行ったゲリラ活動です。
普段はしないサイン付きの作品を販売した動画です。この企画も「覆面販売企画」です。
バンクシーが雇った販売人が単なる「スプレーアート」としてバンクシーの作品を1つ「60ドル」で販売したものです。

バンクシーとは知らず購入された作品は1日でわずか420ドル。中には値引き交渉して半額購入した客もいたようです。
この作品たちはその後オークションにかけられた作品もあり、付いた価格はなんと約25億ドル(2800万!)という高値に!オークション市場では常に高騰しているバンクシーなのです。

Banksy《 Love Is in the Air》

また、筆者が最初にバンクシー作品に触れたのがこちらのCDジャケットです。※下記、Amazonへリンクします。

大好きなイギリスのロックバンド「Blur」のジャケットに採用されたのです。
しかし、この当時はデザインを担当したのがバンクシーとはほとんど意識しておりませんでした。

この原画は2006年にオークションで販売され、当時のレートで「約8.8億円」もの値段が付いたそうです。

【7】美術関係者からは嫌われ者

一部の関係者を除き、美術業界的には「目立ちたがり屋のバンクシー」ということで余り良く思われてはいないようです。
古きアートの文脈からは外れると言うことで、「芸術の面汚し」という強い言葉を使った非難もあるほどに嫌われ者のようです。

今回の「シュレッダー騒動」でも、「最後まで切断しないのはおかしい」とか「ねつ造されたエンタメ」とか「くだらない広告戦略」という美術関係者のコメントを目にしましたが、自由に創造できる芸術活動の中でこれだけ注目されるアクションを起こせる才能には一定の評価や賞賛はあっても良いのではないでしょうか。

「参加者自身もアートの一部」というバンクシーの作品ですから、筆者のような楽しんでいる観衆、批判している美術関係者も含めて1つの作品なのかも知れません。批評者もがバンクシーの手中に収められていると考えれば、ますます愉快で滑稽ですね。

まとめ

以上、筆者の視点でバンクシーについてまとめてみました。

バンクシーの素晴らしい点は、現代のデジタル・テクノロジーを駆使して表現を最大化しているところだと思います。それによって表現力と伝達力を味方に付け、作品や制作行動を広く世の中に知らしめることに成功しています。
また、彼が創造する作品の根底には弱者への配慮や平和的なアプローチが流れています。私たちが共感しやすい要素の上に、見せ方の楽しさ、面白さ、エンタメ性が含まれているのです。
最近では、Tシャツとして商品化されている作品も幾つかあり、一般的な認知も獲得しつつありますが、この件を切っ掛けにさらに知名度を上げていくことでしょう。

バンクシーが見せるこれからの活動に、引き続き注目していきたいと思います。

バンクシーのInstagramには次のようなコメントが残されていました〜”The urge to destroy is also a creative urge” – Picasso 「すべての創造は、破壊から始まる」ーピカソ