【個展】東京の下町に光を当てる〜カロリン・ラベルニュ(Caroline Lavergne)「台東区の手仕事」@Almost Perfect

やきとん屋でスケッチを描くアーティスト

良く行く馴染みのやきとん屋があります。
御徒町の一角にあるその店は、食べログの高得点に惹かれて地域に馴染みの薄い観光客やビジネスマンで混雑しています。
筆者は近隣に在住しており、駅から自宅へ繋がるいつもの通り道から見える店内の様子を伺いながら、空席と胃袋とストレスのバランスが一致したタイミングで1人ふらりと店のご主人に「1名」と告げて席に着きます。

日本人でも女性の1人客は稀です。

客足の衰えない店の混雑は、空席を一気に埋めていくパワーに満ちていて、筆者の隣の1席も着席から間もなく、1人の客によって埋められました。英語メニューを常備するくらい外国人客が珍しくない店の光景でも、1人客の外国人女性は初めて見ることだったのと、1杯目に日本酒を注文し、すかさず鉛筆とノートを取りだしてスケッチを始めたので、思わず声を掛けてしまいました。
その女性客の名は「Caroline Lavergne(カロリン・ラベルニュ)」。今回ご紹介する作家さんです。

Caroline Lavergne カロリン・ラベルニュ

カロリン・ラベルニュはカナダ、モントリオール出身のアーティスト。
台東区の小島に出来たばかりのギャラリー「Almost Perfect」のアーティストインレジデンスに2ヶ月間滞在し、個展を開催しています(開催日:2018年11月17日〜23日)。

Caroline Lavergne

過去にはトルコのイスタンブールの街角を描いたイラストブック《Les platanes d’Istanbul》などがあるように、海外での滞在を通じて、人や街を独自の視点で捉え作品にしています。
今回の来日では、滞在先である「Almost Perfect」(台東区小島)を中心とした、主に個人経営している工房やアトリエへの取材を通じた作品を連作しています。

Almost Perfect(オールモスト・パーフェクト)

「Almost Perfect(オールモスト・パーフェクト)」は、2018年10月に始動した台東区小島2丁目のギャラリー兼アーティストレジデンスです。
3階建てのビルの1階がギャラリー、2階がアーティスト用の居住室兼アトリエ、3階がオーナーご夫婦の住居という構成で、外観の写真にある通り「淺井精米店」というお米屋さんを改装した建物です。

広い通りに面した「Almost Perfect」

こちらの建物は関東大震災直後に建てられたもので、そのあと空襲を生き延び現在に至ります。築100年の歴史を誇る建物は、内部に入ると興味深い歴史の痕跡を確認することが出来ます。
店の中でたき火をしたというような信じられない話しも、煤で黒ずんだ天井や床を見ると納得することが出来ます。

台東区の手仕事 Makers of Taito

「台東区の仕事」とされた本展のタイトルは、その名の通り台東区内に残されている手仕事(ハンドメイド)を取材し、制作された作品展です。

台東区近隣の工房や職人たちの仕事を丁寧に取材して描くカナダ人作家カロリン・ラベルニュの作品は、それぞれにフランス語と日本語制作に至った背景や感想コメントが記載されています。外国人だからこそ感じる気付きや表現が独特で、思わず笑みがこぼれてしまうような記述も含まれていますが、作品の数々は職人たちと同じように丁寧な描写と鋭い観察眼で表現されています。

水彩で彩られた作品は温かく、ペンだけで描かれたモノクロ作品は色彩を鑑賞者に委ねているようで、台東区の手仕事に光を当てようとしている優しい眼差しを感じました。やきとん屋に1人で入るほどの突撃魂は、今回の作品作りにも生かされ多くの取材先に足を運び、対面して形にしていったようです。日本語もお上手でコミュニケーション力も高く、すんなりと下町の文化に馴染んでいるように感じます。カロリンさんは個展終了後間もなく日本をあとにするそうです。

今回描かれた作品は、もしかしたらこのあと異国の地で光が当たり、それによって日本が誇るべきモノ作りの職人さんたちに脚光が集まって行くかも知れません。

概要

カロリン・ラベルニュ
Caroline Lavergne
台東区の手仕事(Makers of Taito)
会場:Almost Perfect
2018年11月17日(土)ー23日(金)
13~17時【火曜定休】