「絵描きを志す人のための本」
作家「岡靖知」さんの電子書籍がKindleから販売されているのを知り、早速購入し読んでみました。
岡靖知さんは写実美人画を得意とする30代中盤の完売作家さん。筆者が伺った個展でも高倍率の抽選でなかなか入手が困難な作家さんです。
今回お送りする「絵描きを志す人のための本」は、タイトルだけで内容を判断すると、完売作家さんが売れない若手作家へ送るハウトゥー本のように受け止められます。そのような性格の本であることに間違いはありませんが、アートコレクターにとってもいくつか参考になる点がありました。
Kindle端末の表示によると読み終わるまでの時間は「17分」。
分量は比較的少ないので一気に読み終わってしまいます。
速読の筆者としては10分ほどで完読でした。
章立ては下記の5章構成です。
- 絵を売る市場
- 市場の相性
- 美術市場の変化と若手の心得
- 経験によるアドバイス1
- 経験によるアドバイス2
市場との相性
「絵描きを志す人のための本」ということですから、著者の経験則から導かれた作家にとって有用なアドバイスが散りばめられています。1つの大きなポイントが作家のタイプ別にマッチする市場の分析です。
多作と寡作、具象と抽象を組み合わせたパターンによって、百貨店、企画画廊、貸し画廊、老舗画廊などに分類していきます。
この分析が明確にフィットするのかはさておき、年間20点未満の岡さんによる経験則が含まれているので、一定の説得力はありそうです。
筆者はコレクター側に位置するので、そういった分類に初めて触れました。多くのギャラリーは、一定の価値観に基づいた運営をしておりますが、作品制作ペースによって取り扱いの判断を決めるという視点にはあまりピンとくるものがありませんでした。
作品の価格設定について
ここ最近、某芸大の学生を中心に、驚くような強気の価格設定を行い、売れ残り状態で個展を終えている光景を多く見ます。
学生の頃からそういった強気の価格戦略をすることについて否定を表明することは出来ませんが、非常にもったいないなぁ…といつも思い会場を後にしています。自身の作家人生を計画的に組み立てるとしたら、最も重要な取り組みはファンを増やすことに他なりません。作品の所有者を増やし、支持者を増やしていくことがその後の作家人生に繋がっていくと思うので、非常にもったいないと思います。
本書は価格面についてのアドバイスを経験則から語っています。値上げをするならば何かしらの変化や成長を遂げるべきとのお話です。作家の方に参考になるのではないでしょうか。筆者は共感できました。
SNS
本書の後半では、個人事業主として他の作家を出し抜くつもりで経営せよ、というような趣旨を展開しています。
特に、SNSで情報発信をしてプロモーションし、販路を拡大すべし、ということです。
閉鎖的な美術業界にあって、開かれたSNSでの情報発信は、アートへ対する鑑賞者の気づきに大きく貢献する時代です。
筆者もコレクターの端くれとして、常に作家さんの情報は収集しております。
ギャラリーで行われるグループ展をはじめとする現場で作品を見ること。InstagramやtwitterをはじめとするSNSで情報をキャッチして、詳細を確認していくことなど、インターネットの力を借りることは少なくありません。
岡さんの指摘は、これからの作家に獲って必要最低限のお作法なのかも知れません。
2点目に購入するハードル
筆者が最も印象的だった記述は「2点目のハードル」というお話でした。
購入して家に飾って頂き、永い鑑賞を経て、もう一点欲しいなぁと思って頂くことは思いのほか簡単ではありません
・・・確かに!
筆者がコレクションする作品はジャンルもキャリアもまちまちですが、複数の作品を所有している作家さんは10%に満たないかも知れません。多くの作品の中で本当に数えるほどです。「また欲しい!」と思うに至るには、日常で感じる所有して良かった!と思うエネルギーが作品にあるか?ということだと思います。
著者の岡靖知さんご自身が、そういった意識を持って作品制作に向き合っていることを知ることが出来たことが最も印象的でした。
作家の皆様の制作活動がよりよいものになるように願っております。