「感性は感動しない」
難解な文章でほとんどの著書は読みにくいイメージの椹木野衣さんが初のエッセイを出しました。「感性は感動しない」です。
複数の大学で入試問題にも取り上げられた「感性は感動しない」※世界思想39号(2012年)を含むエッセイで、著者には珍しく、全編を通して優しくて平易な文章が続いていきます。
大きくは3部構成になっていて、第1部は「美術作品の見方」、第2部は「批評の作法」第3部は「著者自身の人生」について書かれています。
Ⅰ 絵の見方、味わい方
最も印象的だったのは第1章の美術の見方に関するものでした。作品を「かたまり」として見る(感じる)ことは日常意識している点でもあったので強く共感しました。。美術館での鑑賞術などの記述も共感する部分が多く、椹木さんの小難しい批評家イメージが良い意味で崩れて嬉しくなります。「気になったら細々としたことは考えず、雑念ごと丸のみしてしまう」というのですから、肩肘張ること無く作品に向き合う事で良いのですね。
平易な言葉を使っているからこそ、その意味を深く考えないでサラッと読んでしまってはもったいないです。非常に示唆に富んだ内容なので、一つ一つ噛みしめながら読むと人それぞれ違った部分に強く印象づけられる文章が見つかることでしょう。
Ⅱ 本の読み方、批評の書き方
美術を見て受けた強い印象を考える際には「読書が必要」と断じています。
読書に向き合う姿勢や本選びなどから批評の書き方などがエッセイ風に記述されています。オススメの書物を紹介しながら、スマホの使い方などにも言及されていて興味深いです。
Ⅲ 批評の根となる記憶と生活
最後の章は椹木野衣さんの幼少時の記憶やご自身のこどもの話から飛行機の座席の取り方などについて、エピソードを紹介しながらまとめてあります。この章の役割は美術に向き合うにあたり「自己のアイデンティティ」が大きな要素として影響していく、ということなのでしょう。
ちなみに、表紙カバーに採用されているアート作品は高橋大輔さんの作品「無題<デの青>」です。
この作品に関する文中の記述はありませんでしたが、椹木さんが表現するところの「かたまり」のような作品であり、私たち読者へ「この作品をどう見るか?」という椹木さんからの問いかけのようでもあります。