【私の履歴書】熊谷守一・自伝「へたも絵のうち」(日本経済新聞社)

熊谷守一

岐阜県出身の美術作家「熊谷守一」。今でも人気の作家さんです。

2018年に行われた回顧展では彼の生涯に渡った作家人生の変遷がまとめられていて非常に興味深く拝見することが出来ました。

へたも絵のうち

熊谷守一氏が日本経済新聞の人気コラム「私の履歴書」に登場した昭和46年(1971年)6月〜約1ヶ月間の記事を集約したのが本著「へたも絵のうち」。熊谷守一氏が91才時にまとめられた書籍です。

 

谷川徹三氏の解説とカラーや白黒写真で掲載された「図版」も含んでまとめられました。

本書は現在では絶版になっており、2000年に平凡社より復刊したものの、現在ではそちらも出版されていないようで、中古市場でのみ入手できる状況です。

 

図版として掲載された作品は巻末の解説によると熊谷守一氏の希望で選ばれたようです。物議を醸した作品「轢死」は含まれませんでした(本文中にも簡単に触れる記述のみ)。

「私の履歴書」部分では、ゆったりとした語り口で90年もの歴史が自伝としてまとめられています。自然体で表現される語り口は作品にも繋がっていて好感の持てる人柄が窺えます。

東京美術学校(東京藝大)での交流関係も詳しく記述があり、青木繁、和田三造との同期の関わりや、黒田清輝、藤島武二、長原孝太郎などの教授陣野記載もありました。

まとめ

「へたも絵のうち」というタイトルに驚きました。

堂々と「下手」を宣言することのインパクトを狙ったことなのでしょうか?初期の自画像作品(東京藝大収蔵)など見ると、味のある上手さが光ります。晩年の作品についても記号化されているような作品を形成していて、絵画を手中に収めたような器の大きさを感じます。

自分を表現したタイトルと言うよりも、読者、つまり鑑賞者に向けられたメッセージなのかも知れません。本文中にも「上手い絵画作品はすぐ飽きる」という記述を見つけることが出来ました。熊谷守一氏の狙いを垣間見たような気がしました。

文章も読みやすく、一気読みできる良著です!