【読書評】クリスティーズ日本代表が綴る実録記とアートへの視線〜「美意識の値段」山口 桂(集英社)

美意識の値段

世界2大オークション・ハウスのひとつ「クリスティーズ」。
日本法人の社長である著者、山口桂氏は、東洋美術部門インターナショナル・ディレクターをつとめ、日本美術のスペシャリストとして多くの美術品と出会い、作品の橋渡しをしてきました。
本書「美意識の値段」は、オークションを取り巻く個性あふれる関係者、セールでの駆け引きはもちろん、美術品との数奇な出会い、真贋の見分け方、「歴史の一部」を預かるトップコレクター達の誇り、そして欧米でのオークション・ハウスと人々の関係等の逸話を紹介する実録記です。
日本美術への想いを通して、アートと共にある生活を提案し、美意識の磨き方とそれをビジネスや人生に活かす視点を示す好著です。

美意識の値段 :山口 桂

著者である山口桂さんですが、お父さんが山口桂三郎という浮世絵研究者で、国際浮世絵学会の会長だった方です。本書にも実名こそ出てきませんが、日本美術をスパルタで教えられるエピソードが盛り込まれています。

◆著者略歴◆

山口桂(やまぐち かつら)
1963年東京都生まれ。クリスティーズジャパン代表取締役社長。京都造形芸術大学客員教授。立教大学文学部卒業。
1992年、クリスティーズに入社し、日本・東洋美術のスペシャリストとして活動。
19年間NY等で海外勤務をし、2008年の伝運慶の仏像のセール、2017年藤田美術館コレクションセール、2019年伊藤若冲作品で有名なプライス・コレクション190点のプライベートセールなど、多くの実績を残す。

目次

「美意識の値段」目次は以下をご参照ください。

aesthetics-and-prices

本書のポイント

本書は6章から構成されています。主な項を抜き出してみました。

第一章 美術品オークションと云う世界

  • 有名コレクターの作品をゲットするチャンスは「3D」
  • 美術品の値段はどうやってきまるのか?
  • トップコレクターが持つ『歴史の一部』を預かるという意識

第二章 私のアート半生記

  • 私とアートの半世紀
  • クリスティーズとの縁

第三章 美術品を巡る世にも不思議な物語

  • 真贋を巡るドラマ
  • ビジネスシートに鎮座する壺

第四章 日本美術、その鑑賞の流儀

  • 美術館が所蔵品を売る理由
  • 世界は何故日本美術を評価するのか?
  • 世界が注目する日本の現代美術
  • 私の選ぶ「必見日本美術」ベスト30

第五章 審美眼の磨き方

  • 私のお薦め鑑賞法
  • 「ホンモノ」を見抜く眼力の鍛え方
  • バンクシーが投げかける意味

第六章 美意識を生活に活かす

  • 自分好みの美術品をどう飾るか?
  • 美術品を買う事の意味
  • 美術品との出会いは人との出会い

 

読んでみた

オークション会社「クリスティーズ」で経験した、取引の裏側を綴るエピソードが豊富に盛り込まれていて、それだけでも十分に楽しめます。
真贋の見分け方から取引に関わる関係者との関わり合い、オススメの美術鑑賞法、マーケットに対する意見、日本の現代アートについての論考など、著者独自の視点で幅広く展開されるストーリーはとても興味深く読めました。

筆者が特に印象に残ったのは、美術への温かい眼差しでした。
“私の選ぶ「必見日本美術」ベスト30″という項では、取引に関わった著名な美術作品だけで無く、現代アートの作品も含めて紹介しています。

印象的なフレーズがありました。

一級の美術品は全て永遠の「現代美術」である

そう、全ての美術品は、作られた時に「現代美術」なんですよね。当たり前のことなんですが、忘れられがちな事実だと思います。

章末にはアートコレクションの楽しさ、豊かさが記述されていました。
コレクターの方にオススメのアート本です。是非お手にとって読まれることをオススメいたします。

概要

美意識の値段
著者:山口 桂
出版社:集英社
単行本:新書判208ページ
発売日:2020年1月17日
定価 840円+税