【アートコレクターのお作法】額縁の中で密かに進行する「カビ」や「シミ」を防ぐ方法とは?

額装の中の真実

毎年新年になると実家に帰る習慣があります。
お年玉や美味しい料理、手土産などが飛び交う、親戚家族のわいわいとした賑やかな恒例行事です。

そんな中、子供の時にはそれほど意識していなかったリビングに飾っているアート作品が、急に光輝く存在として存在感を増す場面に出くわしました。
持ち主の親に確認をとったところ「持って帰っても構わないよ」との言質を取り、嬉々として譲り受けたのでした・・・。

譲り受けたのが「とある巨匠の版画作品」。制作年は1974年ですから40年以上も経過している作品です。
聞くところによると、当時お金が無かった作家が自ら手売りしていた作品だったそうです。

譲り受けてしばらく、ふと気になって額裏を開けて作品を見てみようと思い、トンボで止められている額を開けてみました。

な、なんだこれは・・・!?

数年前に額を変えたと聞いたのですがこの有様・・・。

チコちゃんに「ボーっと生きてんじゃねーよ!」と叱られそうな褐色の「シミ」が一面に広がっています。

マットの白さが鮮明過ぎて悲しくなります。

作品の表面には全く浮かんできていないので、額を開けるまでは全く気がつきませんでした。

シミの出来る理由とは?

梅雨や台風など、日本は湿度が高い時期の多い悩ましい気候の国です。
今回筆者が目にした斑点状に褐色化しているシミの場合、額裏の木材から出るヤニやリグニンという成分からの影響に加え、湿度変化によって酸化してカビのようなシミが発生していると考えられます。

表面側のアクリル(ガラス)は、主に紫外線(UV)への対抗に役割が集約されますが、直射日光を避けることやUVカット素材が含まれる材質を選ぶことで一定の対応が出来ると思います。
一方で、額縁裏には環境変化の対応に限界のある木材が使用されていて、ぴったりと隙間なく閉じられている額縁はまだしも、微妙な隙間が開いている額縁内のコンディションは過酷だと考えられます。額縁内のコンディションは、表面側からよりも圧倒的に額裏からの影響に大きく左右されるそうです。実際に今回発生した「シミの場所」も作品の裏側でした。
アート作品の中でも、紙を使った作品は環境変化に弱い支持体(素材)ですから、長い時間の経過の中で変質してしまう可能性が高くなります。

「額縁に入っているから守られている」ということではなく、額の中に作品があっても注意しなければならないのです。

額裏を隙間なくピタッとさせる方法もあります。この額装方法ですと比較的安心ですね。

額装店での対応

この状況への対抗策として何が出来るのか・・・?
このまま放置するとますます状況は進行してしまい、今のところ影響が出ていない作品側にもシミが移ってしまうのでは?
ということで、実際に額付きの作品を持参して馴染みの額装店に相談することにしました。

下図の図をご覧下さい。
本来の額装はこのようなフローで作品を守っていくことが推奨されます。

額縁の裏板側からの侵入経路を絶たねばならないのです〜muse公式サイトより引用

筆者の所有作品には、「中性の中間材」を挟まなければならない場所に「段ボール材」が1枚、裏板からの影響を防ぐための「保護材(下図のスーパーバリアシート)」の場所には何も挟んでいないという状態でした。

muse社「SUPER BARRIER SHEET(スーパーバリアシート)」

ということで、額装店にお願いし「中性紙+スーパーバリアシート」という対応をして頂きました(下写真参照)。
こちらの対応でお値段が「約800円」でした(額装店によって使用素材や価格は変動すると思います)。

作品側に「中性紙」を置き、さらに「SUPER BARRIER SHEET」を1枚入れて裏板を閉めます。

SUPER BARRIER SHEET(スーパーバリアシート)は以前にご紹介した「フィルムプラスト(FILMOPLAST)」の販売も行っているメーカー「muse」さんです。アート作品の様々なグッズやアイテムの販売実績があり、信頼できるメーカーさんです。

中性紙もスーパーバリアシートも厚さは紙のように薄いので、現在使っている額縁を変更することなく挟み込むことが出来ます。

筆者の場合、もともと挟まれていた段ボール材を載せ、裏板をかぶせて額装完了です。

今回の対応は「これ以上の進行を防ぐ」目的で行いました。
「シミを抜く」「シミを漂白する」などの修復を目指す対応もあるそうです。これについては私が訪れた額装店では対応していませんでした。機会があれば別途取材してみたいと思っています。

  まとめ   

  1. 額装してOK!ということではないので、額内の環境に要注意です。
  2. 特に版画やデッサン画、水彩画などの紙作品には気をつけましょう。
  3. 「中性紙+バリアシート」で酸化対策して環境保全に配慮しよう。
  4. トンボ付裏蓋による開閉自由の額装よりも、はめ殺しの額装を推奨。
  5. 不安に感じたら額装店に行って相談してみましょう。