青山悟(AOYAMA Satoru)
市ヶ谷「ミヅマアートギャラリー」で開催されている青山悟さんの個展「News From Nowhere」に行ってきました。青山悟さんはテキスタイル作家、今回の作品は、ビンテージプリントに工業用ミシンで縫った刺繍とドローイングがミックスされた作品で、非常に特徴とクセのある作品ラインアップです。
青山悟展 「News From Nowhere」
2017/09/20 - 2017/10/21
前略〜本展では、19世紀ビクトリア時代のビンテージプリントにコラージュ、ドローイング、そしてミシンによる刺繍を施した30点の新作を発表いたします。ファッションやポップ・カルチャーを横断し活躍する現代の女性たちが、あたかも19世紀にタイムスリップしたかのようにプリントの中に登場する本作。ジェンダー・スタディーズ*としての側面をもつテキスタイル・アートを学んだ青山にとって女性の肖像は、長年温めてきたテーマの一つでもあります。
本展のタイトル「News From Nowhere」は、芸術家であり、詩人のウィリアム・モリスが1890年に書いた小説に由来します。19世紀の「私」が22世紀にタイムスリップするという内容のこの小説は、一見奇想天外で、牧歌的な理想に満ちた未来小説のようでありながら、社会主義者としても活躍したモリスの、資本主義社会に変容していく近代化に対する批判が込められたものでした。
青山は最近、「自分たちが思い描いていた未来へと向う軌道がずれてきているのではないかと感じるようになった」と言います。「自然環境、社会、政治、紛争など、理想とはほど遠い現実の歪んだ軌道の先には、モリスが『News From Nowhere』で描いたような、中世の時代をユートピアとして讃える未来に繋がっているのではないか。しかしそれはユートピアと紙一重のディストピアなのではないか。そして未来へ発展ではなく後退しているかのように見える現代こそ、すでにディストピアの渦中なのではないだろうか。」と。
ポップアイコンたちの魅惑的な肖像の根底には、このような現代とその先の未来に対する青山の問題意識が込められています。同時期の開催となる「ヨコハマトリエンナーレ2017」では、画家であった祖父の絵をフィーチャーするという個人史的作品とともに、より政治的なイメージを取り込んだ「News From Nowhere」も出品しています。本展とは補完関係にあるこちらの展示もぜひ併せてご高覧いただけましたら幸いです。
* 社会におけるジェンダー(性)に関する学問分野。女性の地位の向上を目的に発展を遂げてきたことから、女性学と称されることもある。
現代で活躍する女性を、古き時代のプリントとクロスオーバーさせる表現方法は、現代の社会的な現象への警鐘もあって、面白い視点と表現方法だなぁと思いました。
個展「News From Nowhere」
ギャラリー内にはシリーズの制作順に作品が展示されていました(作品リストPDF)、シリーズ第1作目となる作品が入口に近い場所から展示されています。
このシリーズは今後も続けていくそうです、気になりますね、誰をモチーフにしてくれるでしょうか?
インプレッション
ビンテージプリントの暗いトーンに鮮やかな色の刺繍や金箔、スワロフスキが重なると、新旧を織り交ぜて表現している青山さんの意図が明確に伝わってくるようです。
今回モチーフとして登場している現代の女性も、プリントで存在している古き女性たちも、基本的には同じ人間として変わらぬ普遍性を持っているのかも知れません。テキスタイルアートとして、上手にご自身の意図を再現していることはお上手だなぁ、と思いました。
額装の裏側には、オリジナルプリントの写真が残されているようです。購入された方の楽しみとして、面白い仕掛けですね。
私が欲しかった作品は、既に売約済みで手が出せませんでした。残念!
作品価格帯
気になる作品価格帯ですが、中心価格帯が40万円で35万円〜60万円ほどのレンジです。
会期の後半に伺いましたが、筆者が気になった発色が良い色の作品は軒並み販売済みとなっていました。人気作家さんなのですね!
概要
青山悟展
「News From Nowhere」(TOKYO)
会場:ミヅマアートギャラリー
会期:2017年09月20日(水) 〜10月21日(土)