奈良美智 The Beginning Place ここから
奈良美智さんの個展、「奈良美智 The Beginning Place ここから」を青森県立美術館で見ました。
国内の現役現代美術作家であり、世界的に活躍されている奈良さんの地元での個展ということでずっと観に行きたかったのですが、最終日にようやく滑り込むことが出来ました。
巡回展もないため、青森まで足を運ばないと見ることが出来ない貴重な展覧会でした。以下にフォトレポートとして上げておきます。
展示構成は大きく5つに分かれていました。
1. 家
1980年代の初期作品がまとまって紹介されることは本展がはじめて。奈良がドイツへ行くまでの作品は「家」がひんぱんにモチーフとして登場していた。一番最初の作品は「カッチョのある風景」(1979年)。カッチョとは、津軽地方で風除けに立てた木柵のこと。「自分だったら恥ずかしくて出せない油絵。友だちが僕が捨てたのをわざわざ拾って持っていた」(奈良)
これは奈良が予備校で講師をしていた頃の教え子だった杉戸洋が、奈良が放置していた作品を見つけて保管しておいたもので、本展が初公開。
2 積層の時空
これまでの画歴の中で繰り返し描かれてきた少女像は、近年は複雑な絵具層に基づく色彩表現によって、あいまいな輪郭線の奥行きから生まれる作品に変遷してきた。幾層にも塗り重ねたレイヤー(積層)に吹き込まれた生命が、対峙する者の感性をゆさぶってくる。
「偶然を必然として受け止める描き方をいつもしていて、片目がうまく描けないから絆創膏を貼るとか、その場で思いつくことをやっている。……最後までやって、やっと気づくというやり方」(奈良)
毎回描く方法は違っている、と奈良は語っている。生み出したい絵は常に脳みそのシワの奥にあり、さまざまな思考を繰り返して最終的に「思いつく」瞬間にたどり着くそうだ。
新作の《Misnight Tears》には、飲み込まれるような鑑賞体験を感じました。
3 旅
2011年に東日本大震災に見舞われ、奈良自身にもすべての方向転換が生じた。筆をとることもキャンバスを張ることもできず、何かを探り求めて粘土を触り始めた。「夏から冬まで素手で粘土と格闘する中でリハビリテーションを行って。……粘土と対話していると考えなくていいんです。その中で自分のルーツや東北のことを考え、調べるようになった」(奈良)
4 No War
初期作品からのモチーフとして反戦のメッセージやピースマークが奈良の作品に内包されてきた。それは1970年代、戦争と暴力に対抗したミュージシャンの音楽に影響を受けた奈良のポリシーとなっている。
そして震災後に原発の再稼働に反対するデモで、ドローイング「No Nukes」が奈良公認のもとに複製されてプラカードとして掲げられるなど、サブカルチャー的なやり方で大衆に反原発のメッセージを浸透させる活動を続けてきた。
廊下を歩いて行くと現れるホワイトキューブ。
「I DON’T MIND,IF YOU FORGET ME.」というメッセージは、2001年に開催された横浜美術館での個展タイトルでもあります。
展示室の中につくられたインスタレーション「平和の祭壇」は、奈良が個人的に集めたおもちゃが独特の配列で並べられている。この祭壇の横の壁面にも、いろいろなおもちゃが飾られているが、これだけの物量を奈良は自分で並べる作業をしている。そもそも会場の展示全てを奈良が配置している、それもたった5日間で!「ここの美術館、つくられるときから知っていて、構造や空間は体が把握してるんです。だから展示も自分の部屋の内装を変えるくらいの感覚で」(奈良)トークショーでも、「自分は物をつくるより、物を配置するほうが才能があると確信した」と語っていた奈良だったが、学生時代には何でも出来る人として「Nara Can」(ナラキャン)という異名で呼ばれていたという。
5 ロック喫茶「33 1/3」
弘前で高校生のときには地元のライブハウスに出入りしていた奈良は、高校3年生のときに先輩に誘われて、ロック喫茶の店舗づくりに参加した。手作業で建物の外装から内装まで仕上げ、DJブースに入ってレコードを選んでかけていた。そこに集まる人たちとの交流が始まり、小さな共同体となっていた。「そこで僕は、はじめて好きなことが出来る仲間たちと出会いました。みんなでつくったロック喫茶が自分の出発点になっているんだなと」(奈良)1980年に閉店して取り壊されたロック喫茶が、展示会場に忠実に再現されている。まさにタイムスリップして、ここに当時の奈良やその仲間たちがいるような感覚にひたれる。
奈良さんのルーツを体験出来るセクション。
実際に運営していたカフェを再現されていましたが、作品に宿る音楽性を体感出来る場所です。
ペインティング、ドローイング、彫刻、写真、インスタレーションなどさまざまな作品スタイルが、新作から過去作まで、一気に展示された素晴らしい個展でした。奈良美智さんが表現する、さまざまな作品にはオリジナリティが溢れ、メッセージに富み、私たち鑑賞者の心が揺さぶられる感覚が常にありました。
この場所、この時間に開催されたことの意味が強く感じられる、素晴らしい展覧会でした。
概要
会期:2023年 10月14日(土) – 2024年2月25日(日)
開館時間:9:30 – 17:00
主催:奈良美智展2023実行委員会(青森県立美術館、東奥日報社、青森放送、青森テレビ、青森朝日放送、青森県観光国際交流機構)
企画協力:一般財団法人奈良美智財団
学術協力
蔵屋美香(横浜美術館館長)