オラファー・エリアソン「ときに川は橋となる」
オラファー・エリアソン(Olafur Eliasson)の個展「ときに川は橋となる」に伺いました。会場は東京都現代美術館です。
1967年生まれのオラファー・エリアソンは、1990年代初めから、写真、彫刻、ドローイング、インスタレーション、デザイン、建築など、さまざまな表現活動を行ってきました。アートを介したサステナブルな世界の実現に向けた試みで、国際的に高い評価を得ています。
本展覧会は、エリアソンの再生可能エネルギーへの関心と気候変動への働きかけを軸に構成されています。
水彩画
まずはじめの展示作品は、3点の水彩画です。
この作品は、グリーンランドの氷河の氷で制作されました。紙の上で溶けていく氷の水が顔料と混ざり合うことで、豊かな濃淡やにじみが画面全体に広がります。こうした制作の過程には、人間の意志とは無関係に起こる自然現象を共同制作の相手とみなすエリアソンの態度が反映されています。
《クリティカルゾーンの記憶》
続いての作品は、12点の円形のドローイングです。
本展覧会で展示されている作品の多くは、二酸化炭素を多く排出する航空機ではなく、ベルリンから日本まで鉄道と船で運ばれました。
輸送中の動きや揺れを記録する装置によって、人の手を介さずに描かれています。人の手では表現しえない無数の線描には、移動の過程で作品に起こった出来事がくまなく描き出されています。
《太陽の中心への探査》
《あなたに今起きていること、起きたこと、これから起きること》
大きな黄色いスクリーンが広がる展示室には、床に置かれたライト以外に何もありません。
しかし、誰かがライトの前を横切ると、重なり合う複数の影が壁に投じられます。「あなたが動いているときにだけ物事が見える」とエリアソンは言います。行動や変化を起こすことが新たな発見やものの見方につながるのかもしれません。
《ときに川は橋となる》
カラフルな作品とは対照的に、《ときに川は橋となる》の展示室は、暗闇の中に水が張られた大きなシャーレが空間の中心に置かれ、12のスポットライトで照らされています。
水面が揺れると頭上のスクリーンにはとらえがたいさざなみのイメージが映し出されます。
絶えず変化しつつ徐々に 広がるさざなみのような流動する状況をエ リアソンは限界を超えるための欠かせない要素ととらえています。世界との新しい向き合い方を提示するこの作品は本展覧会のための新作です。
《サンライト・グラフィティ》
2012年にエリアソンは携帯式のソーラーライト「リトルサン」をエンジニアのフレデリック・オッテセンと共同開発しました。
《あなたの光の動き》はリトルサンを手にしたダンサーの身体表現とその光の軌跡が記録される映像作品です。《サンライト・グラフィティ》ではリトルサンを手にした体験者が空間に自由に光のドローイングを描きます。
《人間を超えたレゾネーター》
《人間を超えたレゾネーター》は、大きなガラスのリングによって分光した光が壁に同心円の絵画を描いている作品です。
この作品には暗い海を明るく遠くまで照らす灯台の光の仕組みが応用されており、単純な仕掛けによって見る人に大きな驚きを与えるというエリアソンの作品の特徴がよく表れています。
ゆっくりと回転する3つの円形のガラス板を光が照らし、壁に複数の円が浮かび上がっています。大きさの異なるガラス板には特定の波長の光を反射し、補色の光を透過させる特殊な加工が施されています。
[twenty20 img1=”32035″ img2=”32034″ offset=”0.5″ before=”オラファー・エリアソン《おそれてる?》2004年”]
同じ大きさのシアン、マゼンタ、イエローの円が重なり合った瞬間にだけ壁に現れるものがあります。この作品はエリアソンの色彩理論の探求から生まれました。
《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》
エリアソンは最初期から氷河や火山、洞窟といったアイスランドの自然の数々を写真で記録してきました。30点組の作品《溶ける氷河のシリーズ 1999/2019》は、1999年と2019年に撮影したまったく同じ地点の写真を併置することによって、気候変動による20年間の氷河の後退を目に見える形で示しています。
《9つのパブリック・プロジェクトの記録写真》
この作品にはエリアソンが公共空間で行った9つのプロジェクトが記録されています。プロジェクトに共通しているのは目に見えないものを目の前に現出させることによって人びとに気づきをもたらしているという点でしょう。
展示風景より《9つのパブリック・プロジェクトの記録写真》
《サステナビリティの研究室》
本展を通じて、私たちが住む地球の抱える諸問題と、私たち自身の関係性について、改めて自分の意識が呼び起こされたようです。
オラファー・エリアソンが作品を通じて訴えるメッセージに共感しながら、問題意識を強く感じた展覧会でした。
概要
オラファー・エリアソン
「ときに川は橋となる」
会場:東京都現代美術館 企画展示室 地下2F
会期:6月9日(火)〜9月27日(日)
休館日:月曜日(8月10日、9月21日は開館)、8月11日、9月23日
開館時間:10:00-18:00(展示室入場は閉館の30分前まで)
鑑賞券:一般 1,400 円/ 大学生・専門学校生・65 歳以上 1,000円/ 中高生 500円/ 小学生以下無料
《サンライト・グラフィティ》参加方法【整理券制】
《サンライト・グラフィティ》は参加型の作品です。1回の体験時間は約12分間、各回の定員は2名です。体験は【整理券制】となります。
■配布日時:各日午前10時より(先着順、無くなり次第終了)
■配布場所:企画展示室地下2F No.09《サンライト・グラフィティ》の展示室
※整理券は1名につき1枚ずつ配布します。配布当日に限り有効です。(オラファー・エリアソン展のチケットが必要です)