アートの共同保有「ANDART」
最近、世界中で増えつつあるアートの共同保有サービス。
今回は、既に4,000人以上の会員を集め、取扱高では1.3億円を突破するなど、アート界から注目を集めているANDARTさんにお伺いし、アートコレクターであるBur@rtのコバヤシマヒロと@ishitsubutehiroshi氏が、コレクターの立場としてお話を伺いに行ってきました。
インタビューにお答えいただいたのは、創業者でCEOの松園詩織さんとCOOの高木千尋さんです。※以下、敬称略
松園さんは大学時代にアートに関するベンチャー企業に関わり、その後サイバーエージェントに入社、 2018年9月に株式会社ANDARTを立ち上げました。
共同保有サービスは2019年の6月からスタートし、現在まで11作品を取り扱っております。
起業の背景
Q:ANDARTを起業された背景についてお聞かせ下さい。
松園
「これまで専門的にアートの勉強していたわけではないのですが、幼い頃から自宅にアートが飾られているなど、身近に感じる環境で育ちました。
カーシェアをはじめとするシェアリングサービスやクラウドファンディングなどのWEBサービス広がる中で、時代にマッチしたアートと触れ合えるサービスの形を思いつきました。ANDARTを通じて、気軽にアートと触れ合える機会を提供したいと思って起業に至りました。」
Q:時代にマッチすることを目指して起業されたとすれば、現在のアート業界の持つ課題は何か感じてらっしゃいますか?
松園
「アートという言葉が神格化されすぎているのでは?と感じています。
“買うことをスタンダードにしましょう”というのは先人の方々もやってきましたが、いまだに買う人とそうでない人の間にある精神的障壁がとにかく大きいのが実情です。その敷居を下げる仕組みを通じて、リスペクトのある状態で多くの人をアート業界に呼び込むという、これまでやろうとしていて出来ていないことをやりたいです。
ギャラリーはアーティストをサポートすることがミッションのため、買い手の目線になりきれていないと感じています。」
高木
「アート業界から発信される情報には、一般人にとっては分かりにくい用語やルールで動いているような気がしてまして、初歩的なところが伝えられていないように感じます。馴染みのない初心者はエディションって何?みたいなところから知りたいと思います。ギャラリーは行って良いのかな?とか値段聞いて良いのかな?っていう業界の当たり前が一般では当たり前ではないんです。認識のギャップがあると思っています。」
サービスについて
Q:アート業界の外側にいたらからこそ考えられたサービスが「ANDART」とのことですが、どのようなサービスなのでしょうか。
高木
ANDARTは個人では手が届かないような高額な作品や大型の作品を対象とし、小口で会員権を発行して、1万円から購入できるサービスです。
対象作品はANDARTが保管し、公共の場などに展示するなど見てもらえる機会を提供します。また会員権を持つユーザーには優待もあり、限定優待イベントなどのクローズな場で作品を直接見ることも考えています。」
オーナー権というのはANDARTの造語で、作品の所有権ではなく優待などを受けられる会員権を意味するものということです。
高木
「スポーツジムなどの会員権に近いかもしれないですね。いわゆる優待を受けられる権利です。所有権をユーザーに渡すと、展示する時や販売を行う場合など、何かアクションを起こそうとすると全員の合意が必要になるなど問題があるので、所有権をANDARTにしております。」
規約にも記載がありますが、共同保有≠共同所有ではない、ということは押さえておく必要がありそうです。SNS上でも所有していると考えているユーザーもいる点について伺うと、勘違いされているユーザーには今後はきちんと誤解の無いようにお伝えしていきたいとのことでした。なお、作品の所有権については、会員が集まった段階でANDARTが買い付けを完了させ、所有権を保有していく流れのようです。
こうした共同保有サービスはアメリカ、イギリス、シンガポールなど、海外にもあるとのことです。中にはアート作品を金融商品のように証券化するケース(売却時に売却益が出ると配当がもらえる)もあるそうですが、ANDARTはビギナー向けに優待を提供するという形でサービスを提供しています。
松園
「ANDARTの強みは作品のラインナップです。一般の人目線で考え、色んな人に知ってもらえている作家や、受け入れられやすいモチーフを選んでいます。また、UI/UXにこだわっています。」
知名度の高い作家をラインナップに加えることで、実際にユーザー数も堅調に増えていると話します。
Q:会員さんからの反響などお聞かせ頂けますか?
高木
「当初思っていたより提供しているサービスの価値観に共感してくれている人がいます。20~40代の男性が中心で、一般的なサラリーマンの人も多いです。」
松園
「リピーターが40%を超えているのは、ANDARTのサービスが刺さっているコアファンがいるからだと考えています。コレクターの疑似体験ができているのが評価されているところなのではないでしょうか。」
Q:ユーザーから支持される作品はどのようにして集めているのでしょうか。選定基準などがあればお聞かせください。
高木
「定量的にも定性的にも調査していて、その両軸で選んでいます。作家の評判や作品のモチーフを分析しながら決めています。第3者のコレクターやギャラリスト、ディーラーなど関係者の意見を聞き、プライマリーの状況やオークションデータを参考にしていますが、今はビギナーにもわかりやすいキュレーションを目指しています。」
松園
「ANDART独自の世界観を作れればいいと思っています。ANDARTのユーザーに喜んでもらえるようなキュレーションをしていきたいですね。」
Q:今注目しているアーティストなどいらっしゃいますか?
高木「ビギナーでも分かりやすいセレクションにしているので、今はビッグネーム中心のラインアップになっていますが、今後は若手のアーティストにも注目していきたいと思っています。試験的に取り組んだ森洋史さんのケースでは、シルクスクリーンの作品も実際にお手元へお渡しする機会を作ってみました。」
松園「若手アーティストの新しいチャレンジの場になれば良いと思っていまして、森さんの場合をはじめ、今後も機会があればチャレンジしていきたいと思っています。」
Q:おふたりはアートコレクションされているのでしょうか?また、サービス抜きに個人として注目している作家さんはいらっしゃいますか?
松園
「最近、品川はるなさんの作品をコレクションすることが出来ました。気になる作家さんはオートモアイさんです。作品から伝わるメッセージが女性として共感できて好きです。田名網敬一さんも好きな作家のひとりです。」
高木
「私は小谷くるみさんの作品をメデルギャラリーで開催された個展で購入いたしました。また、最近ギャラリーで展示の機会があった小畑多丘さんが気になっています。立体のイメージが強かったのですが、個展で見た平面作品はとても良かったです。」
おふたりともアートが好きとのことで、グラフィティ系、ストリート系アートにも注目されるなど、トレンドには敏感な印象を感じました。
一方で、コレクターとして気になるのは、その評価額です。ANDARTで扱っているKAWSや奈良美智などの作品の評価額は、直近のオークションでの落札額より高く設定されています。
松園
「真贋の鑑定や、保険、この先長期間にわたる美術品倉庫での保管などのコストを含んだ価格設定になっているので、現状のマーケット価格より割高になることもあります。」
コレクターにとって作品が増えてきたときの保管スペースや作品コンディションの維持は死活問題です。そういう意味では長期間の保管費用なども含んだ価格と考えれば、仕方のないところかもしれません。
Q:オープンにコレクターから作品を買い取るケースはありますか?
高木
「現状では取引が決まったケースはないのですが、お問い合わせは結構頂いています。サイトの問い合わせフォームやギャラリーさん経由などからも相談されることがあります。スペースの都合などで手放さざるを得ないコレクターさんがいらっしゃれば、所有権はANDARTに移りますが、一部の会員権をお持ちいただき、残りの会員権をサービス内で他の会員の方に売却するということも可能です。」
松園「売却先の1つとして考えて頂くことはもちろんですが、KAWSをANDARTに提供くださったGMOインターネット代表の熊谷正寿様の場合ですと、素晴らしい作品を共同保有という形でシェアしながら多くの方に鑑賞してもらえる機会をつくるということで、社会に還元することに繋がっていく、というコメントも頂いています。」
YOU AND ART
もうひとつのサービス「YOU AND ART」についてもお話しを伺いました。
松園
「共同保有サービスを提供しておりますが、本来は所有することを推奨したいという思いもあります。所有したい人に向けて出したサービスが「YOU AND ART」です。
ギャラリーや作家さんに連絡して作品をリクルーティングしていて、直接取り扱いの確認を取っています。海外のディーラーから仕入れることもあります。」
安井鷹之介さんはMAHO KUBOTA GALLERYと、品川はるなさんはEUKARYOTEと、それぞれが所属するギャラリーと話をして作品を扱っているとのことでした。また、ダニエル・アーシャムは海外のギャラリーから仕入れているそうです。
Q:ANDARTの今後はどのように進化していくのでしょうか。
松園
「いずれは数億円くらいの大きい規模の作品を扱っていきたいです。共同保有された作品を公共展示や、当社主催のビューイングの場においてなど、国内で作品を鑑賞できる環境を作りたいです。
それと、若手アーティストをどうすれば多くの人に繋げられるか、価値を付けられるかを考えています。今後は若手作家の取り扱いを増やし、ギャラリーに所属する前のPRの場としても使って欲しいと思います。」
高木
「共同保有が根付いた時点で、若手作家を中心にコレクションするサービスを拡充し、最終的には相互に展開していきたいと思っています。
今年の夏には会員権の売買サービスを提供する予定です。個人間取引ができるサービスになる予定で、会員権を自由に値付けして取引できる形です。」
ANDARTが作品を売却した際は、オーナー権の購入時の価格と異なる可能性はありますが、会員権の買い戻しを受けることもできるそうです。美術館でお金を払う以外でアートにお金を払う、というように、コレクションへの当事者意識を根付かせたいと熱く語ってくださいました。
Q:最後にアートコレクターへ一言頂けますでしょうか?
松園
「サービスへのご意見があれば、どんどん頂きたいと思います。作品を社会とシェアする、という感覚で、社会に還元するような意識で出品していただけると嬉しいです。」
高木
「ビギナー向けのサービスですが、コレクターの皆さんも家に置くほどではないにしろ、気になっている作家さんも沢山いると思うので、所有に加えて共同保有という選択肢が増えると嬉しいです。出品のご相談も是非お待ちしています。」
「ANDARTでは、7/29(水)正午12時より新作のオーナー権販売を予定しております。※現在では販売終了。
次回作はバンクシーの閉店してしまったオンラインギャラリーPOWの閉店前に販売された伝説のシルクスクリーン作品です。
普段コレクションとしてはバンクシーをご検討されない方も、共同保有で新たな作品との関わりを作ってみて頂けたら嬉しいです。」
▼バンクシーの作品ページはこちら
インタビューを終えて、コレクターとしての感想
一線で活躍しているビッグアーティストの作品が、大金を支払わなくてもアートに触れ合える機会を得られる新しいサービスのANDART。お二人へのインタビューを通じて、サービスへの理解を深めることが出来ました。
現在主軸として展開している共同保有サービスについては、作品の評価額が販売時のマーケットより諸経費分だけ価格に上乗せされており、資産的価値をすぐに求めるサービスではなさそうです。
そもそも、共同保有とは所有権を得るものではなく、優待などを受けられる会員権という位置付けです。アートを買う前に情報を得て、コレクターとしての疑似体験ができるサービスとして考えると面白いと思います。例えば、実際に株式の取引を行う前に、シミュレーションとして仮想的に取引体験ができるサービスがありますが、そうしたものと同様に考えるとわかりやすいかも知れません。
また、コレクションの実体験へと道を繋げていく販売ショップも展開を進め、若手作家への眼差しも、今後のサービス拡充への意気込みも興味深くお話を聞く機会となりました。
コレクションではない形でのアート体験の新提案として注目したいと思います。
インタビュー協力:@ishitsubutehiroshi
取材日:2020年7月14日
概要
ANDART
共同保有サービス
公式サイト:https://and-art.jp/
YOU AND ART
アート作品のセレクトストア