【Burart diary】加賀温(Atsushi Kaga)さんとアート談義してきた。

加賀温(Atsushi Kaga)

MAHO KUBOTA Galleryで日本初個展を開催していた加賀温さん。
筆者も会期の前半にギャラリーへ伺い、興味深く作品を鑑賞させて頂きました。

会期を終えようとしていたタイミングで、幸運にも長い時間ご一緒する機会を頂き、色んなお話しをさせて頂きました。

ギャラリーの近所でご飯→ギャラリーで解説→レストランに戻って食事→カフェでまた仕切り直しと、後で数えてみたら約5時間も話していた計算です。


加賀さんは19歳からアイルランドに渡り、現地の美術学校で学びながら途中ニューヨークで3年滞在するなど国際派のアーティスト。現在はダブリンを拠点に作家生活を送っており、Mother’s Tankstation LTD(アイルランド)Maho Kubota Gallery(日本)という2つのギャラリーに所属されています。ネイティブな英語を随所に織り交ぜながらお話し頂きました。

 

新陳代謝の激しいアート界にあって、Mother’s Tankstationでは古株の作家になりつつあるそうです。

作品制作についてはアイディアが次から次へと沸いてくるようで、ネタには困らないという加賀さん。筆を一度置くとスイッチが入ったように次へ次へと筆が勝手に動いていくように制作が進んでいくそうです。加賀さん的には「楽曲を演奏する」という比喩を用いて表現していましたが、1音目の音を奏でる(楽曲がはじまる)と、どんどん音が出てくるように筆を置くと「作品が完成されていくと言うことのようです。制作にはキャンバスや板だけでなく「MDF」と言うツルツルとした特殊な素材のボードも使っているようです。

一度完成した作品も、「REMIX」と言う表現で上から色を重ね塗りしたり、書き加えたり塗りつぶしたりと違った作品に変化させることも厭わないようですね。キャンバスの裏書きにも完成日をREMIX日を上書きして記載するそうです。購入者はそういった作品に出会ったら「REMIXだ!」とすぐに確認出来るはずなのですね。

REMIXについて作品を観ながら解説頂きました。

完成後の達成感が理由なのか、制作を終えた作品は「過去の遺物」のような存在になるようで、アトリエの中の作品も「えっ?」と驚くようなぞんざいな取り扱いになるそうです。
作品に対する熱は制作前にピークを迎え、完成後は一気に冷えていくため、作品に対する冷めた視点を持ってらっしゃる印象でした。
先日入手した画集に写真が多く掲載されていたことをお話ししても「絵だけ載せても購入した人に申し訳ない」という意外なコメントが帰って来たりして、少し変わった考え方が面白かったです。

今年に入って訪問したニューヨークで若干印象派の要素を取り入れたなどの多少の変化はありつつも、基本的な作品のテーマは変えておらず、過去の展覧会のアーカイブを拝見しても基本的なアプローチは変わっていないようです。

日本のアート事情について

ギャラリーでは加賀さんの作品のお話しが中心でしたが、場所を移して食事をしながら今回の個展で感じた日本のアート事情について話しが及んでいきました。今回初の開催となった展覧会を通じて、色んな気付きや驚きがあったようです。

マーケット

そもそもアート作品が売れない、と言うことです。加賀さん的にも日本よりは香港の方が売れる確度が高いという確信があるそうです。アートフェア東京とアートバーゼル香港を比較してみても一目瞭然ですね。

オープニングイベント

海外でのアート事情に詳しい加賀さんから個展開催の印象を伺ってみましたが、オープニングイベントの集まりが意外に少ないという点。海外ではただでお酒が飲めたりすることもあって学生などを含めて沢山の賑わいを見せるようです。確かに、日本では確かに低調ですね。

エリア的な問題

ニューヨークやロンドンなどではギャラリーがある場所に固まっているため、地域的にそれぞれのギャラリーを回遊しやすい状況になっているそうです。一方の日本を見ると、東京でも銀座や六本木、青山、新宿、清澄白河、渋谷・・・など、点在していることで私たちアートファンでさえもかなりの労力と時間を費やす必要があります。確かにこの問題はかなり大きそうですね。

アート

日本のアート環境におけるあまりポジティブで無い話しを終えると、何故か葛飾北斎の話になりました。北斎が今日まで語られている背景について、アートが大きく成長する3つの要素に絡めてお話し頂きました。曰く、「作家」「技術」「コレクター」の3つが重なり合ってアートが広がっていく、という説です。

葛飾北斎は、当時最新の絵の具が日本に入ってきたプルシアンブルー(ベロ藍)を使ったことによって、作品の完成度が高まったとの見方です。

作品を描くアーティストに、それを支える画材の製品技術が重なり、鑑賞や購入などで支えるコレクターがいるからこそアートが成立するというお話しでした。今の日本は、アートを支えるエンドユーザーが非常に少ない現象だという見方をしております。日本のアート市場がもう少し整備されれば、現在抱える問題を解決できるのかも知れませんね。

おわりに

最後に作家にもコレクターにもお勧めの参考図書を教えてもらいました。作家にも鑑賞者にも共通して楽しめる「めちゃくちゃ面白い本!」と言う触れ込みです。

ロバート・ヘンライ著「アート・スピリット」です。早速注文して見たので後日レビューを載せたいと思います。

おわりに

グローバルで活躍する加賀温さんの話はとても興味深く、世界的な視点に立って日本のアート界を俯瞰することが出来、筆者も少しその状況に近づくことが出来ました。

同時に、日本が抱える問題も見えて来て複雑な心境を感じましたが、どの様に解決できるのかしばし考えてみましたが、子供の頃からの美術教育から考えていかなければならない、根の深い問題のような気がしました。