【インタビュー企画】 アートギャラリー経営を考えてみたら、林伸次さんに相談していた。

インタビュー企画

今回は、趣向を変えて渋谷のバー「BAR BOSSA」を経営する林伸次さんのインタビューをお送りします。

この「Bur@rt〜ぶらっとアート」というサイトは、アートの楽しさを伝えたいと会社員として働きながら、私、コバヤシマヒロが展覧会のレポートやアトリエ訪問の記事をまとめながら、アートコレクションの関連記事をアップしています。

 実は、私自身はいつか、このサイトと並行しながらギャラリー運営をしてみたいと思っていました。しかし、どこのギャラリー経営も非常に厳しいようで、話を聞くギャラリストからは全員「やめた方が良い」と助言されます。

そこで、別の業界から、ヒントをいただけそうな林伸次さんにお話をうかがいたいと思った次第です。

BAR BOSSAの林伸次さんとは?

BAR BOSSAオーナー林伸次さんをご紹介です。

BAR BOSSAは渋谷のセンター街を抜けた裏路地で、20年以上も続くBarです。林伸次さんはオーナー兼店主としてお店に立つ傍ら、書き手としても活動されています。noteという記事配信サービスでは日記を毎日配信しており、接客業を積み重ねたバーのオーナーならではの間合いで、読者からの質問に答えたり、独自視点の記事で、多くの読者数を誇っています。また、CAKESでもコラムを書いたり、雑誌「LEON」の美女インタビュー企画でも多くの読み手を惹きつけています。

BAR BOSSAのオーナー林伸次さん

このたび刊行した著書「なぜあの飲食店にお客が集まるのか」は、「スゴい! 」と感じた東京の人気飲食店飲食店のオーナーの方々に、同業者ならではの視点でまとめたインタビュー企画です。“なぜ、あの飲食店は繁盛しているのか”、“繁盛しているあの飲食店はいったい何がすごいのか”など、開業のきっかけから、飲食店ならではの経営の話まで、内装費などの開業資金、家賃や客単価などの数字を正確に織り込みながらまとめた本です。

林さんは、Webと連携しながら飲食店を経営しているうえ、今回の著書で多数の飲食店の事例を取材されていることもあり、ギャラリー運営の新たな視点をいただけそうだと思い、インタビューをお願いしました。

BAR BOSSA 店内の様子

著書「なぜあの飲食店にお客が集まるのか」について

林伸次さんの著書についてお話を伺いました。

筆者:今回著書「なぜあの飲食店にお客が集まるのか」を執筆したの理由を伺えますか?

林伸次さん:猪瀬直樹さんが無名ライター時代にまとめた「日本凡人伝」を読んだことがきっかけです。色んな一般の人をインタビューとしてまとめたものですが、時代を切り取ったドキュメンタリー映画のようで面白く、企画を持ち込んだカフェ業界専門誌「CAFERES(カフェレス)」にて連載に至りました。

筆者:沢山のお店が細かい金額を公表していますが、ここまでリアルな数字を開示した飲食店の実録記のような読み物はあるのでしょうか?

林伸次さん:いや、ありませんね。僕が同業者だから話してくれたのでしょう。同業者だから横同士気軽に話してくれたのかも知れません。

筆者:基本的に成功店しか取り上げられてませんが、失敗しているお店の特徴って何かありますか?

林伸次さん:飲食店はコピーしやすいので、オリジナリティが無いとダメなんでしょうね。美術もそうでしょうが、ほとんどの文化は誰かの模倣からはじまっていると思います。模倣するときにその人なりのアイディアや個性がないとダメなんでしょうね。時々「成功している秘訣は何?」って聞かれるんですが。こだわりが人よりも深く深く追求している方が強いのでしょうね。

筆者:本を読んで、成功店の分析をロジカルに整理して紹介されていました。

林伸次さん:成功者バイアスと言いますか、失敗した人もロジカルに考えているはずですが、オリジナリティこだわりの2つなんでしょうね。月並みなんですが、ここだけは譲れないっていうのを持っているのが強いと思います。

筆者:(こんなギャラリーがやりたいんですよね・・・と、筆者が夢想するギャラリー、今までに無いギャラリーの構想を話して)

林伸次さん:「無いからやってみよう!」を一番最初にはじめるってスゴく強いと思うんですね。無いから普通はやらないのに、砂漠にジャングルを作ろうって言うか、とても勇気がいると思うんですね。僕もボサノヴァをかけるバーを始めたんですが、ジャズバーとかソウルバー、ロックバーはあったのですが、ボサノヴァって、その当時はどこにもなかったんです。

林さんに質問してみた

新しいギャラリーのあり方はないものか?という可能性を含めて林さんにお伺いしました。

筆者:BAR BOSSAの近隣に、カフェの中で個展をやっているお店を見つけました。渋谷にも、カフェの中でアートの展示販売をしているお店があるんですね。カフェとギャラリーを両立する業態の可能性について伺えますか?

林伸次さん:あ、そのお店ですか、時々展示をやっているようです。お店経営をしていてお客さんが欲しいとき、よくイベントをやるんです。世の中にはイベントだけ好きな人っているんです。そうしたイベントで来てくれたお客さんは、たまに来てくれたりするんです。人間にはテリトリーがあって、一度入ったお店にはまた行きやすくなる習性があるんです。
アーティストがイベントやるっていうと、SNSでシェアされて、お店に人が来てくれますよね。来てくれたお客さんがまた再訪してくれる流れが出来るんです。

BAR BOSSAも「出会い会」っていう男女の縁をつなげるイベントをやっていました。面倒くさいし儲からないんですが、その時に来てくれたお客さんはその次、また来てくれたりするんです。渋谷は家賃が高いので、こういった企画をやって集客し続けるお店が沢山あります。

筆者:そうした単発の企画を幾つか実施する一方で、昔の文壇バーやジャズ喫茶などのように、お店に特定ジャンルの人が集まり、カルチャーが店に紐付き、場所が力を持つようなお店は有るのでしょうか?

林伸次さん:とある有名なカフェが有るんですが、そのオーナーがイベントをやる時には沢山お客さんが集まるし、グッズの売上げの方がカフェの売上げより多いんです。僕はモノにこだわりがないので興味が無いのでやっていませんが。

「雨と休日」っていうCDショップがあるんですが、昔は西荻にあって、坂本龍一がTwitterで紹介したり雑誌のBRUTUSで紹介されたりしたんですが、今は八王子でお店だけ持っていて、基本はインターネットで売っているんですね。

筆者:オーナーの知名度を上げて、その発信力を使ってインターネットでモノを売るっていう手法が有効ということでしょうか?

林伸次さん:そうですね。私の場合モノを売りたいんですけれど、モノに興味が無くて・・・。ワイングラスとか売れば良いんでしょうが、そういうことに興味が無くて、僕の場合は文筆業になっていますね。

筆者:コミュニティについて伺わせてください。私の周りでアートコレクター仲間のネットワークが広がっているのですが、カフェとコミュニティを接続して経営するっていう考え方はいかがでしょう?

林伸次さん:とても良い考え方だと思います。これからスゴく有りと思いますが、お金にはならないと思います。
僕もはじめお店を音楽寄りにしようと思っていたのですが、色々やってて思ったのは、コレクターとかそういう人たちって、飲食にお金を使わないんですね。ライブを見終わった人って、みんなウーロン茶1杯で帰っちゃうんですね。

でも、コミュニティっていうのはこれからスゴく求められるんだと思います。

お店に来るときがあるんですが、コミュニティでお金を取るとすれば、システムを考えると良いですね。スナックの場合は、3000円で飲み放題にするんです。例えばハイボールの原価って50円なんです。10杯飲んでも500円なので、必ず儲かるんですね。

林伸次さん:先ほどのギャラリーのアイディア、スゴく、イケそうな感じがました!

筆者:え、本当ですか?

林伸次さん:noteとcakesを運営する会社の代表で加藤貞顕さんが話していたんですが、CAKESの始まりって、インターネットで良質なコンテンツが育たないという状況をなんとかしたいと思ってはじめたサービスなんです。当時のインターネットの状況はコンテンツが育ちにくいものでした。WEBコンテンツの未来への危機感から立ち上げたサービスです。「今こうなっている状況を、次こうしたい!」っていう強さってあると思います。

田端信太郎さんってご存じでしょうか?田端さんは、最初の頃からnoteが流行ると話してたんですが、「noteで成功した人が沢山出てくれば、人が集まってくるはずだ」って言っていたんです。noteで儲けたnote長者を何人か作れば「あそこから出たんだよね」っていう流れができあがります。ギャラーリーにしろ、そういう好循環が作れたら良いですね。

まとめ

 

既存のギャラリーシステムに、新しい要素を含めて展開出来ないか?という仮説を持って臨んだインタビューでしたが、質問内容に対して明快に答えを返してくれました。こちらの質問に対して、穏やかな語り口でも、間を置かずにしっかりとお答え頂きました。

印象的だったのは、コミュニティに対する視点やお客さんとの関係性の作り方、インターネットの使い方などです。単に使えば良いという発想ではなく、経験に基づいた理論や、ケーススタディからのアドバイスなど、納得感の高いお話を頂くことが出来ました。

新しいギャラリーの形の輪郭が見えたような気がします。