【企画展】「ハマスホイとデンマーク絵画」東京都美術館

ハマスホイとデンマーク絵画

近年、ハマスホイの評価は世界的に高まり続けています。

欧米の主要な美術館が続々と作品をコレクションに加えているほか、日本でも2008年にはじめての展覧会「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情(国立西洋美術館)」が開催され、それまでほぼ無名の画家だったにもかかわらず、多くの美術ファンを魅了しました。

本展は、19世期末デンマークを代表する画家、ヴィルヘルム・ハマスホイの作品約40点に加え、コペンハーゲンで19世紀前半に華開いた、“デンマーク絵画の黄金期”の素朴で純粋な絵画から、印象派風の光の描写を取り入れたスケーイン派、世紀末の首都で活躍した画家たちによる室内画まで、魅力あふれるデンマーク絵画を日本で初めて本格的に紹介する展覧会です。

ハマスホイとデンマーク絵画

 

第1章「日常礼賛 ― デンマーク絵画の黄金期」

19世紀前半のデンマーク絵画は「黄金期」と呼ばれ、多くの芸術家が現れて多彩な創作活動を展開しました。風景画においては、首都コペンハーゲン郊外にスケッチ旅行に出かけるなど、自然の直接的な観察を通じて身近な自然に美的価値を見出しました。一方、肖像画においては、モデルの社会的地位を象徴する形式ばった表現から、打ち解けた、飾り気のない親密な描写へと移行していきます。それらの注文主は多くの場合、以前のように王侯貴族ではなく、この時代に台頭した市民階級でした。

デンマークの画家たちは、ささやかな日常の礼賛のうちに、自らのアイデンティティを探し求め、見出しました。黄金期に展開した、素朴で穏やかな「市民の芸術」とその価値観は、近代デンマーク文化の基層となり、後の世代の画家たちに受け継がれました。

ダンクヴァト・ドライア《ブランスー島のドルメン》 1842-43年 ブランツ美術館蔵

コンスタンティーン・ハンスン《果物籠を持つ少女》 1827年頃 デンマーク国立美術館蔵

 

第2章スケーイン派と北欧の光

1840年代のデンマークではナショナリズムが高まりを見せ、美術においても王立美術アカデミーを中心にデンマーク固有の風景や伝統的な慣習を残す人々の暮らしを描くことが推奨されました。そうした時代背景のなか、1840年代以降、「未開の地」ユラン(ユトランド)半島へ足を延ばす画家が現れ、1870年代初頭、半島北端の漁師町スケーインが「発見」されます。

この地を訪れた画家たちが描く、独特の厳しい自然環境や、そこに暮らす漁師たちの姿などを通じてスケーインの評判は広まり、国境を越えてこの小さな漁師町に集う芸術家たちはスケーイン派と呼ばれるようになりました。フランスの印象派などの影響を取り入れたスケーイン派の美しい絵画は、19世紀末から今日まで、デンマークの人々を惹きつけています。

クリスティアン・クローグ ≪娘の髪を編む母親≫ 1888年 スケーイン美術館蔵

ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《朝食-画家とその妻マリーイ、作家のオト・ベンソン》 1893年 ヒアシュプロング・コレクション蔵

 

第3章  19世紀末のデンマーク絵画─国際化と室内画の隆盛

1891年に設立された「独立展」は、若手の画家たちに自由な作品発表の場を提供することによって、デンマーク画壇を活況に導きました。1893年にはファン・ゴッホとゴーガンの作品を展示するなど、外国の新しい芸術を紹介する場として、デンマーク美術の国際化に重要な役割を果たします。

また、1880年代以降のコペンハーゲンでは、画家の自宅の室内を主題とする絵画が人気を博しました。温かみのある家庭的な場面が数多く描かれ、そうした「幸福な家庭生活」のイメージを通じて、「親密さ」がデンマーク絵画の特徴のひとつとなったのです。一方、1900年頃には、無人の室内を描いた作品に象徴される、物語性が希薄な室内画が顕著になります。画家たちは居間や寝室を美的空間として捉え、絵画的要素の洗練された統合を追求していきました。

ユーリウス・ポウルスン ≪夕暮れ≫1893年 ラナス美術館蔵

展示風景

カール・ホルスーウ ≪読書する少女のいる室内≫ 1903年デンマーク国立美術館蔵

第4章 ヴィルヘルム・ハマスホイ ― 首都の静寂の中で

最後の章で、いよいよハマスホイ作品の登場です。37作品の絵画が集まりました。

展示風景

ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》1898年 スウェーデン国立美術館蔵

ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》※部分

ヴィルヘルム・ハマスホイ《カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地》1910-11年 マルムー美術館蔵

ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》1905年 デーヴィズ・コレクション蔵

ヴィルヘルム・ハマスホイ《ピアノを弾く妻イーダのいる室内》1910年 国立西洋美術館蔵

ヴィルヘルム・ハマスホイ≪室内、ラーベクス・アリ≫ 1893年  ユーテボリ美術館蔵

ヴィルヘルム・ハマスホイ≪画家の妻のいる室内、ストランゲーゼ30番地≫  1902年デンマーク国立美術館蔵

まとめ

19世紀のデンマーク絵画を総括するような第1章〜第3章を辿りながら、ヴィルヘルム・ハマスホイの絵画で締めくくるという構成でした。

ハマスホイの絵画は、何もない室内や後ろ向きの女性など、動きの少ないモチーフです。また、使われている絵の具はとても落ち着いたグレー(灰色)が中心です。全体的に、静謐という表現がふさわしい落ち着いた絵画です。一方、鑑賞を通じて受け取る印象は、静寂の中にも存在する人間の静かな息づかいや、室内に漂う空気の微妙な動きが含まれているようで、心動く鑑賞体験となりました。

“北欧のフェルメール”とも呼ばれるハマスホイですが、フェルメールとは一線を画す、確かな絵画の強さがありました。

会場のミュージアムショップでは多彩なアイテムが販売されていました。
こちらも要チェックでしょう!

なお、本展は山口県立美術館学芸員である萬屋健司氏の監修により実現しました。山口県立美術館での巡回展は、2020年4月7日〜6月7日に予定されています。

概要

ハマスホイとデンマーク絵画

会場:東京都美術館
会期:2020年1月21日(火)~3月26日(木)
休室日:月曜日、2月25日(火) ※ただし、2月24日(月・休)、3月23日(月)は開室
開室時間:9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
夜間開室:金曜日、2月19日(水)、3月18日(水)は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
観覧料:一般 1,600円 / 大学生・専門学校生 1,300円 / 高校生 800円 / 65歳以上 1,000円
団体券 | 一般 1,400円 / 大学生・専門学校生 1,100円 / 高校生 600円 / 65歳以上 800円
※団体割引の対象は20名以上
※中学生以下は無料。3月20日(金・祝)~26日(木)は18歳以下[2001年4月2日以降生まれ]無料。2月19日(水)、3月18日(水)は65歳以上無料。
※身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方とその付添いの方(1名まで)は無料
※いずれも証明できるものをご持参ください
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団、東京都美術館、読売新聞社
協賛:大日本印刷
後援:デンマーク大使館
特設WEBサイト:https://artexhibition.jp/denmark2020/
お問い合わせ先TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)