【大規模個展】「岡﨑乾二郎 - 視覚のカイソウ」豊田市美術館

※本記事は展覧会内容のネタバレ的要素、鑑賞方法、主観的な記述などを含みます。

岡﨑乾二郎 - 視覚のカイソウ

岡﨑乾二郎さんの個展「視覚のカイソウ」にお伺いしました。会場は豊田市美術館です。

美術館から見た周辺景色

豊田市美術館 入口

「視覚のカイソウ」展は、岡﨑乾二郎さんの新旧作品が展示される回想展であり、相互の作品が関係性を作り鑑賞者にアクセスしていく階層を含むものでもあり、批評家や建築家、作家など幅広い分野で快走を続ける岡﨑さんの大型個展です。

私たちが美術作品を鑑賞する際、一般的に固有の作品が持つ単一のイメージ像に縛られることが多いのではないでしょうか。
「視覚のカイソウ」と言うタイトルの通り、本展は鑑賞者は出展されている作品それだけではなく、作品同士の関係性や意味性に思考を巡らせ、階層のように関連している展示空間への気づきが含まれています。三次元的な捉え方で視点や思考を動かし、作品の表面だけではない、外側や内側にも思考を及ぼし、謎を掘り起こして解き明かしていくような楽しみがありました。

「展示室8」の入口から右手に広がる展示空間

受付を通って最初の展示室「8」では、冒頭には20点のドローイング作品があります。
下写真のとおり、ランダムに配置された6色のドローイングが整然と並んでいます。色別に似たようなモチーフが同一のタッチで描かれていますが、コピーされたような作品に見えます。実はこの作品、全て描画ロボットとの協働による作品なんです。

描画ロボットとの協働によるドローイング

この作品は、岡﨑さんが描いたドローイングをコンピューターに記録し、描く主体ではなく、支持体が動くようにプログラムされた仕組みによって制作されました。

単に描画ロボットが描くというのでなく、その動きを支持体の動きに移し替えて描く、というところがポイントです。過去の岡﨑さん、を再演するロボットと、現在のおかざきさんが共作して完成した作品なのです。

この展示は、鑑賞するなかで瞬間的に受け取る違和感や細かな気づきについて、ひとつ踏み込んでどう掘り下げられるか?いかに解釈していくか?という、岡﨑さんが冒頭に仕込んだ仕掛けのようです。この仕掛けは、答えが分からないままでも、この後続く展示作品を読み解くきっかけとして機能する装置のような存在なのかも知れません。

ドローイングコーナーを通り過ぎて左手のコーナーは「ブランカッチ礼拝堂壁画分析」です。
岡﨑さんの著書「ルネサンス 経験の条件」で明らかにされた研究を、視覚的に体験できる貴重な機会です。

ブランカッチ礼拝堂壁画分析

ここでは、PCを使ったデモやAR技術を駆使した体験を通じて、ブランカッチ礼拝堂の壁画に隠された秘密を解き明かしてくれます。

CGを使った説明やAR技術を使った検証企画

壁画分析で行われる謎解きの過程を通じて、展示作品を読み解く直接的なヒントが提示されます。岡﨑さんの作品が共通して持っている、色や素材、カタチなどが複層的に交錯する特徴と重なる部分があります。この壁画分析の展示室を経て、いよいよ岡崎さんの本格的な展示ゾーンに突入していきます。

展示風景

1階の展示室は絵画とレリーフ中心に構成されていました。
大きな美術館の展示室に、大小の作品が心地良く並んでいました。

展示風景

大小の作品が混在して展示されていました。

正面左:≪あなたはこの水を乾かし、あるいは飲み干すだろう。けれど決して水は滅びない。水は姿を変え移動しただけである。水は乾くことなく、水がのどの渇きを癒すのだ。と似て、わたしの指一本いや手足を切り落とそうと、わたしは切り落せない。姿を変える勝手気ままが水ではなく、わたし(の赤い水、血)ではない。水の中に水の姿に関わらぬ何か、として水の霊が宿っている(水が弾きだす波と早合点しないように。波は音楽のようにあちこち拡がり増えたり減ったりするが、水の霊は増減せず分割もされない)。わたしは水の中にあり、泳ぎ、まどろみ、そして目覚める。≫2016年 210×260×7cm

空の国も(地上と似て)樹木と花々に満ち、動物も鳥も(もちろんアヒルも兎も)いて、みんな地上より美しい!それらは確かに存在する!空の青さを見なさい。遠くに存在する、ものはなんでも青、と見えるのだから。

展示風景

左:≪死者はきっと到着できますか(天の光は出口の合図)? 肉体もなく翼も必要ない魂だって、こんなに上まで飛びつづけられないわ。かつて川の畔に一本の高い高い木があり(それを猿のように攀じ、鳥のように枝うつりし)未来の故郷へ行けると教わりました(勉学の手引!)。木は朽ち、膝を草叢につくと「これはスミレ」。わたしはその名を知っています。≫ 2008年
中:≪光にとって空気は透明ではない(侵入の妨げ)。だから天空には星!つまり窓が開き、夕方には眩しい光(言葉でなく)が地上へとどく。≫ 2008年
右:≪空の国も(地上と似て)樹木と花々に満ち、動物も鳥も(もちろんアヒルも兎も)いて、みんな地上より美しい!それらは確かに存在する!空の青さを見なさい。遠くに存在する、ものはなんでも青、と見えるのだから。≫2008年

入場時に配られる作品リストは約130作品に分類されていますが、組作品が多く含まれているため、作品数は300〜400作品ほどある印象です。
組作品であることによって、絵と絵の間、形と形の間に複数の関係性を作ることができ、それによって、多様な鑑賞体験に繋がっていく面白さがあります。

右の壁:レリーフシリーズ≪おかちまち≫作品

レリーフ

レリーフ作品は、≪おかちまちシリーズ≫は以下の写真にある通り、フライヤーにも採用されている岡﨑乾二郎さん代表作のひとつです。

以下に載せる写真のように、同一の作品でも、見る角度によって違った印象を受ける葉末う

ゼロサムネイルシリーズ

また、もう一つのゼロサムネイルシリーズも数多く出品されていました。
岡﨑さん作品の中で、筆者が最も魅了されるシリーズ作品です。本展では沢山の展示数が用意されていました。

展示風景

以下は参考記事ですが、2019年にTAKURO SOMEYAギャラリー(東京・天王洲)で開催された個展は、ゼロサムネイルシリーズを中心に構成されました。https://burart.jp/2019/08/kenjiro-okazaki-tsca/

彫刻

2階のフロアには2002年のヴェネチア・ビエンナーレ第8回建築展で出品された彫刻作品が新作とともに並んでいました。

左:岡崎乾二郎 ≪1853≫ 2002年
右:岡崎乾二郎 ≪1853≫ 2019年

展示風景

≪「手出しをするな。ということこそ、私たちにとって唯一の言葉である」ぐんぐん近づいてきたのよ。でもこなかった。音もしなかったし、まだ明るかった。そんなにあんまり呼ばないで。いま自分から行こうとしているのだから。なんであんなことを彼が言っていたのかわかったわ。然るにその日の午後になって、わたしたちの住んでいる住宅地のすぐ近くに、落ちたのです。ええ、私のしっている人は一人だけです。熱エネルギーの移動。これだけは自然のなりゆきにまかせるよりほかはない。いや、やはりそれは自然のしわざではない、化学者のしわざです。「手の下しようもなく、お行儀がいい。だからどうかわたしを日陰におかないで。」あんなことを、なんで彼がいっていたのか分かるでしょう?≫ 1990-1991年│鋼│190×180×320cm 大阪中之島美術館

タイル作品

2020年7月グランドオープンする複合商業施設「Hareza池袋」では、タイルとガラスを使った壁画作品が展開されていますが、本展でもタイル作品の新作が展示されていました。

展示風景

岡﨑乾二郎≪Martian canals/streets≫2019年

布作品

洋裁の型紙を用いて切った布を縫い合わせたコラージュ的な作品です。
古い作品ですが、さまざまな素材を作品に取り込んでいく岡﨑さんです。

展示風景

岡﨑乾二郎≪まだ早いが遅くなる≫ 1986年 224×176cm

最後の展示室

3階の展示室、最後の部屋にぽつんと置かれた彫刻作品は、本展を象徴的にまとめたような作品でした。

≪間違えもせず、手探りもしないで、まっすぐ食卓の上に手を伸ばす。それから、また壁に手を触れないで、三度跳んだら部屋の外だったが、扉を閉めるのを忘れていた。≫ 1995年 石膏│160×320×140cm

見る角度で大きく表情を変える彫刻作品でした

まとめ

豊田市美術館の大きな展示空間で見る数々の岡﨑乾二郎さん作品は、隣合う作品や空間との関係性などに視線を運びながら、鑑賞することが出来ました。

美術作品を単一のイメージとして捉えることを一旦放棄し、思考を回転させながら展示作家の発信するメッセージに近づいていく鑑賞方法は、鑑賞者である私たちに与えられた楽しみ方のひとつなのかも知れません。美術の素晴らしさを味わう上で、貴重な鑑賞体験となりました。

ひとつの作品が階層のように展開されていく鑑賞を経て、私たち個人ひとりひとりも、社会の中でレイヤーのように影響、共鳴し合っているような気づきもありました。

2019年見た多くの美術展の中でも、特筆して満足度の高い美術展になりました。

概要

岡﨑乾二郎 ― 視覚のカイソウ

会場:豊田市美術館
会期:2019年11月23 日(土)~2020年2月24日(月・祝)
休館日:月曜日、12月28 日(土)〜1月4日(土)
*ただし 1月13日(月・祝)、2月24日(月・祝)は開館
開館時間:10:00〜17:30(入場は午後5時まで)
観覧料:一般:1,300 円(1,100 円)/高大生 900 円(800 円)/中学生以下無料 ※( )内は前売り及び20名以上の団体料金
主催:豊田市美術館
協力:株式会社 LIXIL、株式会社中川ケミカル