熊谷亜莉沙「Single bed」
熊谷亜莉沙さんの個展「Single bed」にお伺いしました。会場はギャラリー小柳です。
熊谷亜莉沙さんは2015年に京都造形大学を修了した若手女性作家です。
筆者は熊谷亜莉沙さんを存じ上げませんでしたが、会期前より知人コレクターが絶賛していたこともあり、訪問するきっかけとなりました。
また、強烈な印象を伴う、ステートメントの文章に興味喚起されたこともあります。引き込まれる文章ですね。
Single bed
父が孤独死した。 冬を越え、春になってしまったようで地元の新聞にも載った。 それが父であるか判別するのに 2 ヶ月かかった。 彼はまだ50 代だった。
葬式も無かった。 その後彼の実家に直接行ったのは私ひとりで、母は大きな花束だけ彼に手向けた。 最近のお供え花は、それとは思えないほどに華やかできれいだ。
あれからもうずっと、母が手向けた美しい花のことを考える。
どうしようもなく人が人を愛してしまうことも、憎んでしまうことも、気が狂いそうなほどの寂しさも、 手放しがたい孤独も。
眠ることは小さな死だという。 私は今日も自分のシングルベッドで眠る。熊谷亜莉沙
会場内で最も視線が注がれる作品は2m近い高さを誇る大作「Single bed」です。
実際にシングルベッドのサイズを計測し、特注で組んだパネルです。
本展で出品されている作品は、熊谷亜莉沙さんの家族やこれまで経験した生活の一部分がモチーフとして描かれています。
ステートメントに記された出来事を含めて、人間の普遍的な営みを表現しています。
圧倒的な表現力
熊谷亜莉沙さんの作品は、人に視点を置いた作品が多いものの、直接的に顔を描くことはなく、その表情を窺い知ることは出来ません。
一方で、マテリアルやディテールを描く画力が非常に高度で、画面の構成力も高く奥行きを感じることが出来ます。
作品の深みを作る大きなポイントは、熊谷亜莉沙さんの黒色が作る複雑な色彩です。
黒色の絵の具は一切使わず、透明色の絵の具を何層にも塗り重ねる工程で黒色として表現されるのです。
鑑賞者の立つ位置により複雑に黒色が様々に変化します。肉眼でしか分かりませんが、艶やかな「黒」の表現力は必見です
前述した画力の高さは、吸い込まれるような人肌や洋服のテクスチャーなどで一目で確認出来るでしょう。
筆の動きを感じないほど丁寧に描き込まれ、作品と鑑賞者の距離をグイと近づけてくれたようです。
出品作品は初日で完売となったようです。
多作な作家さんではなさそうで、これからも入手が困難な作家さんになりそうです。
熊谷さんご本人にお話を伺う機会に恵まれました。
作品について語る時の的確な言葉の選び方や、柔らかで落ち着いた語り口が印象的でした。
これからの活躍が楽しみな作家さんです。今後の活動に注目していきたいと思います。
概要
熊谷亜莉沙(Arisa Kumagai)
Single bed
会期:2019年 5月16日(木)〜6月22日(土)
オープニング・レセプション 5月16日(木)18:00〜20:00
会場:ギャラリー小柳
時間:11:00~19:00 ※休廊日:日・月・祝祭日