【News】過去最大規模の個展開催〜イケムラレイコ 土と星 Our Planet @国立新美術館

イケムラレイコ 土と星 Our Planet

長くヨーロッパを拠点に活動し、国際的にも高い評価を得ているイケムラレイコさんの大規模な個展が開催されます。会期は2019年1月18日(金)〜4月1日(月)、会場は国立新美術館です。

イケムラレイコ 《頭から生えた木》 2015 テラコッタ、釉薬 30x37x24cm 個人蔵、ドイツ
Courtesy Galerie Karsten Greve AG, St. Moritz

イケムラレイコは、1970年代にスペインに渡り、その後スイスを経て、180年代前半からはドイツを拠点に活躍してきました。絵画、彫刻、ドローイング、水彩、版画、写真など、イケムラが手掛けるメディアは多岐にわたります。それはイケムラが、何かが生まれる途上に潜在している、いまだはっきりとは見えない無限の可能性を表現するという独創的な芸術的課題に、多様なメディアをもって挑んできたことの証でもあるでしょう。
本展覧会では、そのような不可能にも思える目標に真摯に取り組んできたイケムラの創造の軌跡を、約210点の作品とともにご紹介します。

イケムラレイコ 《うねりの春》 2018年 顔料/ジュート 190x290cm 作家蔵

スイスで本格的に画家としての活動を開始したイケムラは、1983年にドイツに移りました。
当時の絵画を席巻していたのは、力強い色とかたちで、人間の生の感情を表出する新表現主義と呼ばれる動向でした。イケムラもまた、女性であること、そして異邦人であることの困難に抵抗するかのような荒々しい絵画や、多様な線で構成されたユーモラスで人間味あふれるドローイングなど、実験的な試みに没頭しました。そうした制作を経て、1990年代以降に現われてきたのは、名もない小さな動物や無垢な少女たち、母と子、木々や山と一体化した人物、誕生と死を含みこむ神話的な原始の風景などでした。

イケムラレイコ《始原》2015 年 テンペラ/ジュート 190x290cm 作家蔵

人や自然をコントロールし、体系化することによって成り立つ今日の社会は、自然災害だけでなく、 原発の事故など、人が作りだしたさまざまなひずみによって揺さぶられています。
うつろな空間に漂うはかなげな少女や、現代美術で正面から取り上げられにくかった母と子の像、そして、幻想的な、自然と一体化した小さな生きものたちのすがたには、この世に生まれでた、あるいは、これから生 まれいずるものたちの存在の多様性を、あるがままに受け入れようとする強靭な思想が感じられます。
寡黙でささやかな、自らのうちに深く沈みこんでいく内省的な作品世界は、まさにこの点において、きわめて今日的な批評性に満ちています。それは、日本とヨーロッパという異なった土壌で鋭敏な感覚を磨いてきたイケムラだからこそ見出しえた、啓示に満ちた景色でもあるでしょう。

イケムラレイコ 《ベルリン地平線 I》 2012年 テンペラ、油彩/ジュート 110x180cm 作家蔵

2011年に東京国立近代美術館と三重県立美術館で開催された「イケムラレイコ うつりゆくもの」展以降、イケムラは、社会に向き合う態度をより意識するようになったといいます。
本展覧会は、独創的な創造活動により、破綻しかけた社会の構造にまで切り込もうとするイケムラの芸術をたどりなおし、多面的に追体験できるように、16のインスタレーションの集合として構成されています。展覧会のクライマックスには、近年の総合的な世界観を、神話的な空間に表出した大型の風景画の部屋が現われます。

イケムラレイコ 《ハルコ I》 2017年 テンペラ/ジュート 120x120cm 個人蔵、アメリカ
Courtesy of Jim Murren, Chairman of MGM Resorts

5つの見どころ

本展覧会の見どころは大きく以下の5つです。

1. これまでで最大規模の個展
2000平米の展示室と野外展示場も使い、約210点をご紹介します。
展示される作品は、絵画、彫刻、 ドローイング、水彩、版画、写真、映像、と、イケムラが手掛けてきたすべてのメディアを網羅します。
また、文学にも豊かな資質を発揮しているイケムラの詩も、会場内にちりばめられる予定です。

2. 16のインスタレーション
展示会場は、イケムラが探求してきた16のテーマに基づく、16のインスタレーションで構成されています。
観客には、これらのインスタレーションをめぐり歩く道しるべとなる地図を配布する予定です。
展示構成を手掛けたのは、これまでにイケムラと何度もコラボレーションしている建築家のフィリップ・フォン・マットです。

3. 初期のドローイングと絵画
1973年からスペインのセビリア大学美術学部で学んだイケムラは、1979年にスイスに移り、現代美術家としての活動を本格的に開始しました。
本展覧会には、作家にゆかりの地であるスイスから、初期のドローイング約40点や表現主義風の大型の絵画がやってきます。これらの作品群には、近作にいたるまでの変わらぬイケムラの関心を垣間見ることができます。

4. 近年の新たな試み
イケムラの絵画は、近年、ふたたび大型化しています。
山水画を思わせる幽玄の景色には、人や動物のすがたが溶け込んでいます。
最新作《うねりの春》は、生命の高揚を感じさせる春のモティーフにふさわしく、明るく暖かい色彩をベースにしています。大きな空間いっぱいに広がる風景画と、身も心も一体化する体験をお楽しみください。

5. イメージの連鎖
イケムラの作品では、人や動物、木々や山がかたちを変え、あるイメージからまた別のイメージへとつぎつぎに変化していきます。
イメージは、見る人の記憶や精神状態に呼応して、見え方を変える柔軟性をそなえています。
本展覧会では、イケムラのヴィジョンを追体験するだけでなく、自分だけのイメージを紡ぎだすこともできるでしょう。

イケムラレイコ 《母の情景》 2011/15年 油彩/ジュート 90x180cm 作家蔵

イケムラレイコ 《オーシャン III》 2000/01年 油彩/ジュート 120x160cm ヒルティ美術財団

イケムラレイコ 《花嫁》 1990年 テラコッタ、釉薬 97.5x45x31 cm 作家蔵

イケムラレイコ 《母とミコ》 1995年 テラコッタ、釉薬 91x55x55cm 個人蔵、ドイツ

イケムラレイコ 《花》 2009/18年 65×43.2cmラムダプリント 作家蔵

近年の新作も含めた、これまでにない大規模展覧会として、イケムラレイコさんの幅広い作品が鑑賞出来る貴重な機会です。非常に楽しみにその時を待ちたいと思います。

なお、本展覧会はスイスのバーゼル美術館と共同で企画するものです。
東京展を再構成した巡回展が、2019年5月11日〜 9月1日にバーゼル美術館(スイス)で開催予定です。

概要

イケムラレイコ 土と星 Our Planet
会期: 2019年1月18日(金)–4月1日(月)
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00–18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E[東京・六本木] 主催:国立新美術館、バーゼル美術館
後援:スイス大使館
観覧料(税込)
当日:一般 1,000円/大学生 500円
前売/団体:一般 800円/大学生 300円