【個展】黒坂祐「荒れた庭、空っぽの部屋からの要請」@四谷未確認スタジオ

四谷未確認スタジオ

銭湯を改修して作られたギャラリー「四谷未確認スタジオ」へお伺いしてきました。

メトロ「四谷三丁目」駅から徒歩6分の場所にあります。

銭湯を改装して造られたギャラリーと言えば「スカイザバスハウス」が知られますが、この場所は銭湯感が随所に残されていて昭和にトリップしたようです。

靴箱も使えるようになっています。昭和レトロを感じます。

黒坂祐「荒れた庭、空っぽの部屋からの要請」

ギャラリー初の展覧会となる本企画は未確認スタジオの代表、黒坂祐さんの個展です。
銭湯内の空間に手作りの仕切り板などを設置してギャラリー的な空間を創りあげています。

番台もキチンと残されていました。

本個展を鑑賞したのは少し以前で、記事にするまでに結構な時間が経過しております。
通常は鑑賞後、比較的スムーズに文字に書けるのですが、筆者的には作品と空間が作る世界をすぐに消化できなかったため、時間が掛かってしまいました。それは、直近で読了した椹木野衣さんの著書「感性は感動しない」の影響かも知れません。
椹木さんが推奨する美術鑑賞方法として「作品を塊として見る。雑念ごと丸のみしてしまう」と言うものがありますが、本個展ではそうした意識を強く持って鑑賞しておりました。
黒坂さんの作品が抽象画であって、未確認スタジオという特殊な空間、さらにステートメントの記載を読み込んで自分の中の理解をどの様に整理していくのか、と言うことに時間が掛けてみたいと思いました。

荒れた庭、空っぽの部屋からの要請

私にとって絵画は部屋の中身のようなものです。
絵を描く以前の行為はずっとその部屋の外側を作っている気分でした。
例えば塀や外壁、屋根などをつくっているような。
外側ができあがりはじめてからは少しずつ中身のことを考えられるようになりました。
いまはまだ空っぽの部屋を眺めながらいくつかの重要な要素が浮かんでくるのを筆を持ちながら待っています。
ここで重要なのは、空っぽの部屋、または何も描かれていない支持体が私に何を要請しているかということです。
つまり絵をつくっていく主体は私ではないのです。
偶然にフォルムとフォルムを出会わせること、それらをフレーミングしたときにできあがる構図、私が主体となって行う作業はここまでです。
あとはそれらの関係性に要請されて色や質を選択していくだけで、絵を絵として完成させるのは私ではありません。
それがどのような絵になるかもわかりません。
これはジル・クレマンの提唱した「動いている庭」の考え方と似ています。
庭に偶然生えた雑草とされるものを守るという選択だけを人がする。
邪魔だといって植物を刈るのではなく、人がそこをどいて新しい道を整備する。
主体を植物におき、それになるべく合わせて逆らわず選択をする立場に人をおくという考え方です。
ここからここまでを庭とすること、それは絵画におけるフレーミング。
まずはざっくりとフォルムを与えて基本の構図をつくる。
ここまでは人にしかできない作業であると私は考えます。
ここからは庭や支持体に主体が移ります。
単なる偶然性ではない必然性による絵画、それを達成するにはやはり、荒れた庭、空っぽの部屋、何も描かれていない支持体からの要請に耳を傾けることです。
2018/06/28 黒坂 祐

作品はアクリル絵の具を使ってキャンバスや麻、綿麻布などの支持体に描かれています。写真でご覧のように図形のような形状が描かれている抽象画です。

筆者は、情報量が多い作品を鑑賞するときに因数分解するように解釈を整えていくよりも、少ない情報の中から作品の意図や意味を自分なりに解釈することの方が好きなタイプのようです
今回の作品からどのような解釈で自分流の作品理解を進めて行くのか・・・、と言うことは芸術鑑賞する上でとても楽しい作業なのですが、今回は会場の特殊性もあってスムーズに進めることはできませんでした。それぞれの作品に目を移し、作品を塊として見ることや雑念ごと丸のみしてしまうことを行いました。
その一方で、最小限に描かれたオブジェクトから省略化された画像をイメージしてみたり、何らかのモノに変換してみたり、脳内で具現化したりすることも行っておりました。
色んな取組を同時に、自分の限られたハコの中で出し入れしていくようなイメージです。

たった1人、静かなスタジオで鑑賞しているのですが、音が消え、空気もなくなり、空間の中に浮遊する自分がいるような境地にたどり着いて、思考が止まるような瞬間もありました。不思議な感覚でした。

脱衣場を改装した展示エリアから見えるすぐそこの場所には、タイルがむき出しの風呂場が雑然と放置されたようにありました。美術ギャラリーにいるのに、自分が一体どこにいるのか分からなくなるような非日常的な空間です。

整理されていないか、あえて整理しないのか、風呂場には雑多なアイテムが置かれていました。

風呂場のタイル部分に並んだ共同運営者である多田恋一朗さんの作品も展示。

綺麗や美しいと言う基準では測れない作品と共にいる自分を感じながら、それでも、これまでにない体験を感じながら今いる空間を楽しんでいることを確かめ、会場をあとにしました。

未確認スタジオはまだはじまったばかりのギャラリーです。
また次ある展示を楽しみにしています。

概要

黒坂 祐
「荒れた庭、空っぽの部屋からの要請」
会場:四谷未確認スタジオ 東京都新宿区四谷4−13−1
会期:2018年 7月29日(日)~ 8月19日(日)
時間:13:00 ~ 19:00
※初日18:00からオープニングパーティー
入場料:ギャラリースペースのみ利用 500円、サロンスペースのみ利用 500円、両方の利用 1000円(1ドリンク付き)