猪瀬直哉「Romantic Depression」
猪瀬直哉さんの個展「Romantic Depression」にお伺いしました。会場は初個展以来2回目の開催となるGINZA SIXに構えるギャラリー「THE CLUB」です。
前回の個展内容は下記よりご覧ください。
猪瀬直哉ステートメント
ロマンティックディプレッション(ロマンチックな憂鬱)、相反するその響きは理にかなっていないように思える。しかし私の中でその二つの事柄は密接に近い距離感にある。私は絵画制作をする際リサーチする事を大切にしている。本展前にアイスランドにリサーチトリップを行った時まさにこのタイトルが頭によぎった。
鬱々とした曇り空に緑のない広大なフィールド。厳しい気候に加え、活発な火山活動の影響で、 森林が減少し火山灰や溶岩が地面を覆ってしまっている。国連食糧農業機関の報告書によれば、アイスラ ンドの国土に占める森林面積は 0.5%しかない。木々が生えていないということは、土壌の侵食を防いだり保水性を高めたりしてくれる植生が存在しないことを意味する。
世界最北の島国アイスランドは、広範な砂漠化の危機にあるそうだ。しかしそんな風景にどこかロマンを感じてしまう。終末的な風景は私の作品のテーマとしてよく描くがアイスランドはまさにすごくリアルな環境であった。そしてその状況は現在の人々にもよく似ているように思える。特に現代病の代表格である鬱はまさにそんな風景にリンクする。何かが枯渇し再生のし難いもの、頭の中が曇ったような感覚。色のなくなった風景がそこにはある。
ロマン主義風景絵画は常にその鬱性質的なものとリンクしてきた。代表的な作家として、カスパー・ダーヴィト・フリードリヒがいるが、その静寂に包まれた風景作品群は非常にロマンティックに描かれている。しかし作家張本人は鬱病に苦しめられていたとされ、作家の心身的な空虚性とそこで見出す希望が作品にロマ ンスをもたらすのであろうか。
多くの現代人がこのような空虚感に見覚えがあるのではないかと思う。私もその張本人でありその空虚性を私のフィルターを通しビジュアル化したその作品群を見ていただきたい。
本展に出品された作品は猪瀬直哉さん自身が作ったストーリーによって、入口の作品から物語が進んでいくよう、順番に展示されていました。
代表的なモチーフであるペンギンは、猪瀬さん(日本人)自身を象徴的なアイコンとして用いています。また、目の前のプールは「日本」をイメージして描かれているそうです。
ペンギンは場所を変えて世界へと旅立っていきます。代表的なモチーフ「モノリス」も含まれています。
「モノリス」は、スタンリック・キューブリック監督の映画「2001年宇宙の旅」シリーズに登場する、石柱状の謎の物体です。
《Romantic depression》は、リサーチで訪れた世界最北の島国、アイスランドの風景を描いた大作です。
古きアナログテレビ放送が映し出していた、カラーバーと砂嵐が入り交じる作品《Heaven》で締められていました。
猪瀬直哉さんの作品、写真では伝わらない凄みがあります。
実際にギャラリーで鑑賞する機会を作って頂ければと思います。
概要
猪瀬直哉(Naoya Inose)
「Romantic Depression」
会場:THE CLUB
会期:2020年3月9日〜5月14日
時間:GINZA SIXの営業時間に準ずる ※コロナ対策で要確認