Special Exhibit:Tabaimo
ポーラ美術館で開催されている「シュルレアリスムと絵画」展の後半に現代美術作家の束芋さんの特別展示室がありました。
「Special Exhibit」と題されたこの展示は、本展「シュルレアリスムと絵画」と束芋作品との関係性により企画されました。
ポーラ美術館学芸員さんによると、以下の3つの点が本展の主旨と繋がっており、展覧会の企画として招聘されました。
- 映像表現も含めて、束芋さんの作品は、シュルレアリスム表現の技法のひとつである「コラージュ」を基本に制作されている
- 束芋さんの手書きドローイングは、シュルレアリスム的表現が含まれる戦後の漫画と類似している
- 現実世界の本質に挑む表現がシュルレアリスムと共通する
展示構成
「Special Exhibit:Tabaimo」は、大きく4つの作品で構成されていました。
1)ghost-running
2019年に発表した版画のシリーズ「ghost-running」は、版画用語で本刷りの後に残ったインクでもう一枚刷ったものを「ゴースト」と呼ぶことからうまれたものです。
束芋さんは、版画工房の摺師と一緒に新たな実験を行っている中で「ゴーストを捉える」手法を見つけたそうです。
自分で作り上げたものではない過程から、どのようにイメージを見いだしていくか?というユニークな作品です。各作品は3回摺られており、作品番号によって判別できるように付けられています。
2)flow-wer
≪flow-wer≫シリーズは、以前から臓器を描いていた束芋さんが2013年からはじめた作品です。
臓器は体から切り離すと個性が無くなりますが、花と組み合わせることで個性を蘇らせている作品です。
生きたままの臓器、土から切り離した花、それぞれの人生を合体させ、私たち鑑賞者にとっての個性や生き方を問いかけているような作品です。
3)ウォールドローイング
本展のために1週間滞在して制作されたのが、展示室の壁に描かれたウォールドローイングです。
4)映像インスタレーション
映像インスタレーションは、2作品です。
日本初公開の《虫の声》は、白無地の軸装に映像を投影する作品です。
音は入っていませんが、画面の外にまで広がっていく空間を想像しながら楽しめる作品でした。
《dolefullhouse》は、壁いっぱいに展開される大きな画面で上映されていました。
ミニチュアの家にアイテムを置いていく巨大な手は、距離感を掴みにくい動きが繰り返されます。合間に皮膚を掻いたり、窓から蛸が何度か登場し、外側から内部まで絡みついてくるような展開に進んでいきます。手は痒みも増して、ハウスにモノがあふれてくると、最後には水で流れてしまうという作品でした。何かを暗喩しているようで、ゾワゾワするような感覚が残りました。
シュールレアリスムが、理性では辿り着けない強い現実性、とするならば、束芋さんの作品が表現する現代社会への視線は、同じような意味合いを含んでいるように感じました。
作品には、私たちに何かを想像させる力が含まれていて、展覧会を締めくくるための相応しい役割を担っているようでした。
概要
シュルレアリスムと絵画 ―ダリ、エルンストと日本の「シュール」展
会期:2019年12月15日~2020年4月5日 ※会期中無休
展示替え:版画、写真作品をはじめ、作品の入れ替えあり。
※前期:2019年12月15日〜2020年2月5日 後期:2020年2月6日〜4月5日
会場:ポーラ美術館
開館時間:9:00〜17:00(最終入館は16:30)
休館日:会期中無休
料金:大人 1800円 / 65歳以上 1600円 / 大学・高校生 1300円 / 中学生以下無料
主催: 公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館