イケムラレイコ 土と星 Our Planet
イケムラレイコさんの個展「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」が開催されました。会場は国立新美術館です。
※以下の写真は全て〈「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」展 2019年 国立新美術館展示風景〉です。
イケムラレイコ
イケムラレイコさんは約45年前から日本を出て海外生活を送っており、スペインからスイスを経て現在はドイツのベルリンを拠点にしている作家です。長くヨーロッパを拠点に活動しており、国際的にも高い評価を得ているイケムラレイコさん。日本の美術館での個展は、東京国立近代美術館と三重県立美術館で開催された2011年以来となりますが、東日本大震災に大きく影響されたイケムラさんの作品は本展の中核をなすものであり、それらの作品が日本で披露されることの意義はご本人にとっても大きな意味があるものと想像されます。
本展に合わせて来日したご本人のオープニングトークでは、「言葉にならない・・・」と感極まって言葉に詰まる場面がとても印象的に映りました。日本を離れているからこそ、強く想うところがあるようです。
イケムラレイコさんの作品は多彩です。
ドローイング、水彩、ペインティング、彫刻、版画、写真、映像などの表現方法に加え、展示会場の壁面に記された詩も含めて多岐に渡り、その才能の奥深さに触れることが出来ます。
画家が彫刻の分野に領域を広げることは、現代のアートシーンでは時に見られるものですが、1980年代という時代からイケムラレイコさんがその分野に取り組んでいることには注目すべきでしょう。早くからその才能を多方面に発揮された証は、本展で披露される約210点もの作品の中で存分に鑑賞することが出来ます。
「イケムラレイコ 土と星 Our Planet」16のテーマ
本展覧会は16のセクションに分かれた展示となっております。
そして、1つのセクションが独立したインスタレーションとして完成されています。
以下に少しずつご紹介させて頂きますが、特にお伝えしたいことは「空間で鑑賞することの重要性」があると言うことです。
平面画像ではお伝えできない空間の素晴らしさは、是非美術館に足を運んで体験して頂きたいポイントです。
1. プロローグ|Prologue
入場してすぐの部屋には彫刻の横に大きなパネルがライトアップされています。
本展の大きなテーマにも繋がる作品《生命の循環》を引き延ばしたものです。
鑑賞者はこの作品で表現される「循環」というキーワードをイメージしながら各セクションを進んで行くことになります。
《生命の循環》は本展の全体コンセプトに繋がっており、16の独立したゾーンはそれ自身が1つのインスタレーションとして成立しながら、隣合うセクションを侵食するかのような流れが作られています。
2. 原風景|Origin
冒頭の作品は、1989年〜1990年のペインティング作品が中心です。
本展ではキャプションが排除されており、作品と空間を構成する壁面を体全体で飲み込んでいくように鑑賞することが出来ます。
音声ガイドサービスも無く、厳かな空間に支配されています。
3. 有機と無機|Organic and Inorganic
続くセクションでは広い会場に彫刻作品がずらっと並んでいました。
1990年代前半のテラコッタを使った作品が中心です。手で練られた痕跡を残しているような素朴で優しい色合いの作品です。
4. ドローイングの世界|Realm of Drawings
1980年〜1987年までの作品が年代順に展示されています。
イケムラレイコさんが最初に評価されたのは素描作品だったそうです。
5. 少女|Girls
少女のセクション、特にペインティング作品の素晴らしさは出色でした。
曖昧で幻想的な描写が想像力を掻きたてられるようです。
曖昧で、孤独で、何かに立ち向かっているようなそれは、異国の地に長く滞在されたご本人の生き様のように強く印象に残りました。
6. アマゾン|Amazon
7. 戦い|War
8. うさぎ観音|Usagi Kannon
東洋的な観音様にうさぎを取り入れた作品「うさぎ観音」は震災を経て制作されたものです。
スカートをまとい、女の子のような表情は微笑んでいるようにも見えます。
母性を象徴化しているような佇まいのようで、その眼差しはイケムラさんご自身と重なるようにイメージされました。
うさぎ観音は、以降のセクションでも展示されており、合計2体が出品されています。
9. 山|Mountains
10. 庭|Garden
先ほどのうさぎ観音と同様の作品、こちらは信楽の陶器作品です。高さは約3.4mもあります。
よく見ると涙しているように見えます。見る時間によっても印象が変わりそうですが、夜間にライトアップされた作品は幻想的な雰囲気がありました。
11. 木|Trees
12. 炎|Flame
13. 地平線|Horizon
作品によって選択する支持体も特徴的です。ジュート(麻)を使った作品のマチエールは独特の味があって素敵です。
14. メメント・モリ|Memento Mori
本展のコンセプトでもある《生命の循環》における重要な位置を占める「死」を表現したセクション。
イケムラレイコさんは「死」について、「始まりに繋がる概念」という解釈をしているようでした。
図録では「無」という形で表現されていますが、作品の《メメント・モリ》シリーズは震災後に作られた作品です。
15. コスミックスケープ|Cosmicscape
最新作の展示作品に囲まれたセクション。
実質的には最後の山場を飾る場所で、最も広い展示スペースです。
東洋的な雰囲気を持つテンペラ作品です。
最新作《うねりの春》はイケムラレイコさんが新たにみせる作品と印象受けます。
イケムラさんご自身が循環し新しいご自身を発見しているような空間がありました。
16. エピローグ|Epilogue
最後のセクションは「エピローグ」とされていますが、「最初も最後も無い」とおっしゃるのはイケムラさん自身のお言葉です。
最後に触れる展示作品は冒頭に触れた《生命の循環》のオリジナル版です。
始まりの作品が終わりの作品に繋がり、全ての展示作品が循環しているような格好で締まります。
展示デザイン
展示デザイン、展示構成はイケムラレイコさんのパートナー、フィリップ・フォン・マット氏による仕事です。
会場内にある、複数の曲がり角や抜けるように作られた空間は、セクションごとの繋がりや関係性を意識したものになっていて、それぞれの作品が持つ時間の流れやテーマ性を循環するように考えられています。
普段は建築家としてのお仕事をされているとのお話ですが、美術展のデザイン経験も数多くあり、日本での実績も複数あるそうです。
作品とのトーン&マナーを意識し、抑揚をおさえるようなデザイン力は素晴らしいものがありました。
フィリップさんの貢献度は、インスタレーション作品を構成する要素として大きく貢献しているように感じました。
会場内販売
会場内のショップでは本展の図録と書籍『どこにも属さないわたし』の2点のみが販売されています。
本展の図録については作品の写真もそうですが、関係者の寄稿が多く含まれている読み物的な価値や資料的な意味合いなども含めて丁寧にまとめられたものです。是非持っておきたい完成度を誇っておりました。
まとめ
プロローグからエピローグまで、16のセクションをどのように鑑賞していくかはそれぞれですが、静かで意志の強い作品を存分に堪能できる空間がありました。広い空間に展示された数多くの作品には、イケムラレイコさんが送ってきたキャリアを映し出すように、東洋と西洋とが混在するような要素を感じるることが出来ます。混在するものが見事に融合されている世界は、イケムラレイコさんが続けてきた作家としてのキャリアが存分に展開されているのではないでしょうか。
本展の鑑賞ポイントを以下にまとめてみました。
皆様に大プッシュできる、2019年の大注目美術展です!
- 展示スペースや作品点数(約210点)などを含め、これまでで最大規模の個展である
- イケムラレイコさんの多彩な作品が初期作から最新作まで揃っている
- 作品単体のみならず、インスタレーションとして構成される展示空間にも注目
- 「生命の循環」というテーマについて、大きく考えられる契機に繋がる
- 会場構成やデザインが素晴らしく、アートを存分に体験出来る好機である
概要
イケムラレイコ 土と星 Our Planet
会期: 2019年1月18日(金)–4月1日(月)
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00–18:00 ※毎週金・土曜日は20:00まで ※入場は閉館の30分前まで
会場:国立新美術館 企画展示室1E[東京・六本木]
主催:国立新美術館、バーゼル美術館
後援:スイス大使館
観覧料(税込)
当日:一般 1,000円/大学生 500円
前売/団体:一般 800円/大学生 300円