【個展】表現力溢れる圧倒的空間〜馬嘉豪(マジャホウ)「霾(バイ)PM2.5」@TAV GALLERY

馬嘉豪「霾PM2.5」

「安倍首相が絵を描いたら買いますか?」と無邪気な笑顔で問いかけてきたのは多摩美の現役大学3年生馬嘉豪(マジャホウ)22歳。中国から日本にやって来た若手作家です。
今回の個展は自分のポートフォリオをギャラリーに持ち込んで個展開催を要望したことから実現されたもので、なんともエネルギッシュな若者ですが、話しをするとお茶目でジョークも楽しい、少しはにかみ屋の青年です。

TAV GALLERYでの初個展

 私は「平和」と呼ばれた時代で生まれた。しかし、日々「この世界は平和ではない」という疑問を持って悩み続けている。もちろん、私は大統領ではないし、この世界の問題を理解したとしても、解決することはできない。ただ、今に生きる人として、世界の問題の本質を知りたい。「軍人の存在意味は何だ?」「何故、人類は一つの生き物として、ここまで数を増やしたのか?」「欲望の正体は何だ?」私が社会の中に生きてきて感じた問題を繰り返して作品の中で取り上げる。この問題は私だけの問題ではなく、きっと世界の本質の問題と繋がると信じてる。作品というより、世界の問題(戦争状態)の本当の姿を探すための演算式だと考えて貰えればいいと思う。

今回展示してる作品は大量の兵士のおもちゃやサラリーマンの模型や紙飛行機、人形の腕などを使っているが、一個一個だけ見ると、おもちゃであり、遊び心がある。だがそれを重ねて繰り返し大量に登場させると怖さと危険性が感じられる。私の世界に対しての見方は多分それだと思う。一人の問題であれば怖くない、70億人(世界の人口数)の問題であったらきっと恐ろしいことだ。一人の軍人だったら怖くない、229万人(中国軍人数)だったら、きっと怖いことになるでしょう。私の表現したいものはこの膨大な人口数の下に存在する問題と矛盾とそれらから産まれる戦争状態だと思う。また、その大量数によって構成した日常風景の中に非日常を見出したい。

また今回のPM2.5の匂いを使って、ギャラリーに煙を作り出すという試みは今回の展示の内容物と共に「戦争状態」という体験が作りたかった為である。ギャラリーのドアを開くと「臭い」という生理的な反応が出てくる、それによって作品の見方が変わると思う。その匂いを含めて私の作品をより理解してもらいたい。

馬嘉豪(マジャホウ)

ギャラリーに入るとまず気がつくのはギャラリー内に漂う空気の違和感です。
入るやいなや、ギャラリストから「マスク」が差し出され、特殊な空気に注意するよう着用を促されます。

《蜘蛛の記念碑》奥にあるのは来場者用に用意された「PM2.5対策マスク」

特別制作された「PM2.5発生装置」により、ギャラリー内が非日常空間を演出していました。

EDITION10で販売されていた《霾PM2.5》

作品の中でまず目を引いたのが大型作品《進駐の門》です。

《進駐の門》2017年 1725mm×1380mm

中国製の小さな軍人のフィギュアを1対1体溶接しながら、立体作品へと繋げていきます。
この、ただ事でない雰囲気の作品にしばし息を飲みます。兵士が重なりながら全体の作品を生み出しています。この門はどこからどこに繋がっていくのでしょうか・・・。

《進駐の門》※部分

使われたフィギュアは中国製で、作家のマジャホウ本人が鞄に詰め込んで中国から日本に持ち込んだんだとか・・・。その数はもちろん相当数に及んだそうです。
※フィギュアはアメリカのデザインだという話しも面白かったです。

《進駐の門》※部分〜横から撮影

40kg以上ある巨大作品《進駐の門》を収蔵されたコレクター「ゆうたろうさん」から本作品をコレクションするにあたり、コメントを頂戴しました。

私のコレクションの方向性の一つに「人間の業(ごう)」を表現したものがあります。その際たるものが戦争画です。

マジャホウの《進駐の門》は、現代兵器ではなく一兵卒でできあがっており、個性をはぎ取られ、戦時になれば上の命令ひとつで命も数字(戦死者数)としてしか扱われない恐怖と狂気をあらわしていると感じました。

中国という国を背負い、ギリギリの表現をする彼を応援したいと思いました。

ゆうたろう

コレクションされた《進駐の門》ですが、当面は室内に飾ることはなく、どこかに「保管」する形になるとのお話しでした。重さも、大きさも、価格も、そしてなによりとてつもなく大きな作品の存在感を丸ごと飲み込んだ懐の深さに脱帽です。

《進駐の門》※部分〜「MADE IN CHINA」の文字が見えます。

その他の作品も「数」というのがテーマの1つに置かれているようで、フィギュアをはじめ同じモチーフを繰り返し使った作品が印象的でした。
中国という「数」を抜きにしては語れない大国に生まれた作家の必然なのかも知れません。

《居民城市》2018年 255mm×361mm

千手観音とは思えぬ、突き出された異常な腕の数々《千手观音(シンショウグァンイン)》は恐怖を覚える作りでした

《千手观音(シンショウグァンイン)》2018年 360mm×360mm

《千手观音(シンショウグァンイン)》部分

《拼接(ピンチェ)》2018年 360mm×520mm

《破砕(ボゥスイ)》2018年 600mm×600mm

PM2.5発生装置は次の動画のように排出されていました。

《霧の中を》2018年 325mm×197mm×257mm

《飛来横渦》の世界は正面から見ると牢屋、横から見ると学校の教室を表現した作品で、見る角度によって様々な表情を覗かせます。正面から見た箱の中の背景には背景に軍人が描かれ、投獄されているような見え方になっています。また、牢屋の中には多数の紙飛行機が飛び交っています。

《飛来横渦》2018年 1872mm×760mm×1394mm

一方で、横には薄汚れたガラスの小窓が設置され、内部を覗き見ることが出来ます。

《飛来横渦》は横の窓から見ると教室の机と椅子や黒板の教室内風景が広がります。

《飛来横渦》部分〜背景の軍人たち

《在住十字路口(ズーザイシズゥルーカオ》は最もフィギュアが使われた作品です。

《在住十字路口(ズーザイシズゥルーカオ》2017年 1620×1300mm

こちらの作品は小さなフィギュアが大量に使用されています。
中央には日の丸が描かれ、日本、東京を表現している作品です。

《在住十字路口(ズーザイシズゥルーカオ》部分

第4回CAF賞に続き、第22回岡本太郎現代芸術賞に入選した気鋭の作家マジャホウ。
今後の活躍も期待されますが、制作に多くの日数をかけるタイプで、個展はしばらく無さそうです。

緊張感に満ちた空気を感じるギャラリー空間は、久々に味わうものでした。
とにかく圧倒的で、表現に溢れる、素晴らしいアーティストの誕生を感じる個展でした。

  まとめ  

  1. 多摩美3年生22歳の中国人アーティスト
  2. CAF賞に引き続き、岡本太郎現代芸術賞にも入選
  3. PM2.5を再現したギャラリー内の特殊な空気と匂い。先着400名にマスク支給。
  4. 中国国家への違和感を表現。同時に日本社会にも問いかける作品も。
  5. 大量のフィギュアと圧倒的な大型作品の迫力

概要

名称 : 馬嘉豪 個展「霾(バイ)PM2.5」
会期 : 2018年11月2日 (金) – 11月18日 (日)
会場 : TAV GALLERY (東京都杉並区阿佐谷北1-31-2)
時間 : 13:00 – 20:00
休廊 : 水曜、木曜
レセプションパーティ : 11月2日 (金) 18:00 – 20:00
トークイベント : 11月2日 (金) 19:00 – / 馬嘉豪 x 清水恵美 (入場500円)