【個展】内なる太陽が広がる空間〜森 万里子 「Central」 SCAI THE BATHHOUSE

森万里子 「Central」

森万里子さんの個展「Central」に伺いました。会場は銭湯を改築したギャラリーSCAI THE BATHHOUSEです。

SCAI THE BATHHOUSE

本展に寄せた森万里子さんのステイトメントはこちらです。

Central―内なる太陽―

ここ数か月、コロナ禍の影響で長年の海外生活から一時帰国をし、東京で蟄居生活を強いられてきました。確かに感染症という見えざるウィルスの脅威によって、不安な日々もありましたが、ある“精神現象”へ導かれて創作するという稀有な体験ができました。外的世界から疎遠になることにより、多くの時間を内的世界の探求に費やすことになったのです。“内なる太陽”または“内なる光”を希求する新たな日常を手に入れました。内側へ向かって行けば行くほど、世界は広がり、外的宇宙よりもさらに深奥な宇宙空間がそこに存在しているように感じました。

本展“Central”は、平面、ドローイング、立体で構成されています。平面作品は、目に見えない、“内なる光”を描いた以前の《Dream Temple》(1999)の映像と連続している作品ともいえます。なぜなら、その制作のきっかけは、“内なる太陽”と初めて出会ったことだったからです。ドローイングはすべてこの数か月間に制作しました。

立体作品《Divine Stone》は、内なる宇宙の中心で輝く“内なる太陽”が次元を跳び超え、この世にその光を放っているイメージで制作しました。近年、日本全国にある数多くの磐座いわくらを訪れましたが、そのフィールドワークからインスピレーションを得ています。磐座は、古墳時代から祭祀儀礼を執り行う自然石であり、神霊を招き祀るための神の座であり、古代人はこれを深く信仰していました。古事記では、最初に発現した神の名は天之柱中主神と記されています。この神は宇宙の根源もしくは宇宙そのものですが、その姿を見せず、目に見えない所から統合者としてあらゆるところに偏在していた、と伝えられています。制作の構想中、神々が降臨する磐座のようなイメージで、作品の中に“内なる太陽”の輝きを視覚化することはできないかと考えました。この発想から、《Divine Stone》は“内なる光”の多彩な色を放ち、その光の中心性を暗示する作品となりました。

ある日ふと、ドイツの美学者ハンス・ゼーデルマイヤの『光の死』(原書は1964年出版)が目に留まりました。彼は、オーストリアの詩人・画家アーダルベルト・シュティフターが記した皆既日食に関する随想に触発され、こう述べていました。「精神の中心にある光が暗黒化することは、外界の光の暗黒化と同様な現象を必然的に引き起こす。しかし芸術もまた、内なる必然性によって自然自身と同様な方法で、この精神的な事象を明示する。」この一文に触れたとき、喪失した光を新たに蘇らせる作品ができないか、と考えました。

光は決して死なない
永遠に死することはない。
目には見えない偉大な“内なる光”は
存在するすべての世界の隅々まで届いている。

つまり可視化できない、その眩しい光の根源こそが、命を宿し、存在するすべてを包み込んでいるのでしょう。たとえ外界の光から遮断されたとしても、この世に存在する、溢れみなぎるエネルギーの集合体に連なることができるなら、輝く精神の光に満たされるのではないでしょうか。

森 万里子
2020年8月

 

展示風景〜前室

森万里子《Radiant Being Lenticular》2020年 ED:5

展示風景〜前室

展示風景〜前室

 

展示風景〜後室

展示風景〜後室

森万里子《Divine StoneⅤ》2019年 ED:5

森万里子《Radiant Being Ⅳ》2019年 ED:5

展示風景〜後室

森万里子《Divine StoneⅤ》2019年 ED:5

森万里子《Divine StoneⅥ》2019年 ED:5

《Divine Stone》シリーズは、水族館でも使われるアクリルガラスの工房に依頼して作った特注品だそうです。
見る角度によって様々な色合いが映し出される作品は、鑑賞者自身の心の中を映し出しているようにも感じました。

作品を通じて、自分の心の中への意識に想いが及び、内なる感情と同期したような体験でした。

概要

森万里子
「Central」

会場:SCAI THE BATHHOUSE
会期:2020年9月11日(金)〜 10月17日(土)
時間:12:00 – 18:00
休み:日・月・祝日