【美術館初個展】目[mé]「非常にはっきりとわからない」千葉市美術館

はじめに

本記事は、千葉市美術館で開催されている目[mé]「非常にはっきりとわからない」展の会期後にきちんとまとめようと思っていたレビュー記事です。
本展の統一したお作法=鑑賞者はネタバレ発言をしてはいけない暗黙のルールも手伝って、慎重に記事を書かなければならないことから逃げていた部分もありました。しかし、会期中できるだけ早めにまとめ記事の更新をしよう!と、方針転換することに至りました。

・・・というのも、最近(11月18日)公開した当サイトの週刊日記「Burart Diary」で本展を軽く紹介してから、相当量のアクセスが記録され続け、日を追ってさらに伸びている状況があるからです。
アクセス数のスコアと同時に、関連する検索ワードが多数打ち込まれている記録も飛び込んで来ており、訪問者からの強いエネルギーを感じております。
本記事は、「非常にはっきりとわからない」展が何やら相当話題になっているのでは?という興味関心のある来訪者の方へ向けて、少しでも展覧会に足を運んで頂くような期待を含め、急ぎ記事をまとめたものです。

※本記事は館内写真や鑑賞コメントを含む記事で、ネタバレを排除出来ておりません。鑑賞前に読まれる方はご注意ください。なお、本展の核心部分には触れておりません。

目[mé]

目[mé]は、3人のアーティスト〜アーティスト荒神明香(こうじん・はるか)さん、ディレクター南川憲二さん、インストーラー増井宏文さんで構成される芸術ユニットです。インスタレーション作品などを通じて、私たち鑑賞者に「気づき」を与えてくれるような意識を持ちながら活動しています。

以下の2作品は筆者が取材した2019年開催の展覧会(グループ企画展)で撮影した作品です。
いずれも視覚からカラダが揺さぶられるような作品で、周囲の景色は見えなくなり、作品に飲み込まれるような錯覚を起こしました。

目[mé]《アクリルガス》 樹脂・アクリル他 〜VOCA展2019より ※本展出品作品

目[mé]《景体》2019年〜六本木クロッシング展より

目[mé]「非常にはっきりとわからない」

さて、目[mé]「非常にはっきりとわからない」展です。
開催会場である千葉市美術館は、大規模なリニューアルが決まっており、本展は全館休館期間となる2020年1月〜6月末を直前に控えたタイミングで開催されています。

まずは1階で受付に向かいます

本展は、そういった美術館の状況を上手く取り込んだように構成されていました。千葉市美術館の施設全体を大型のインスターレーション作品として包み込んだ企画です。

目[mé]「非常にはっきりとわからない」メインビジュアル

 

チケットは記名制、本人であれば何度でも来場が可能です。

1階フロアの展示風景

本展は1階フロアのみ撮影が許可されていますが、一見してリニューアルの工事が行われているかのような雑然とした光景が飛び込んで来ます。既にここから美術展ははじまっています。気妙な違和感を感じながら、展示会場の7階、9階フロアに上るエレベーターまで歩いて行きます。

1階のエレベータフロア〜メディアの取材であっても、撮影はここまでです。

エレベーターホールも養生されていて、立ち入り禁止区域を示すテープによって、許された場所しか歩けないように鑑賞者の動きが制限されます。

展覧会タイトルの通り、「非常にはっきりとわからない」状況を認識するのは7階と8階の展示フロアにいって確信します。展示フロアに行くと分かるのは、通常よくある美術作品の展示会場とは全くコンセプトが異なる、ということです。以下に引用した展覧会ステイトメントにヒントが隠されているのかも知れません(含まれていないのかも知れません)。

ごあいさつ

前略

空間を大規模に変容させる表現などで、現実世界の不確かさを人びとの実感に引き寄せる作品を展開し、国内外で大きく注目を集める現代アートチーム「目」の、美術館における初の大規模個展を開催します。

千葉県の地球磁場逆転地層(チバニアン)や、それらの地質学によって示されるように、未だに原因が解明できないような天変地異の連続の上に、私たちの現実という地表の世界は成り立っています。本展では、展示物に加え、鑑賞者の動きや気づきを含む千葉市美術館の施設全体の状況をインスタレーション作品として展開し、突き放された現実としての美術館に人々を誘います。
様々な状況が集積されてゆく動的な展示空間は、訪れる人々が理解していたはずの意味や本質を剥がしてゆくように、当たり前のものとしてどこか見過されているような現実世界を、新たな感覚で捉え直させる機会となるでしょう。

後略

ステイトメントにあるように、地球磁場逆転地層(チバニアン)の発見から着想を得て企画された作品や展示方式、見せ方の妙があります。時間も場所も不定な状態に置かれることから引用されたそれらの展示方式は、現場でしか体感できない一期一会の体験です。そして、美術館を訪れるタイミングによっても

「優れた美術作品とは、見る人の心を動かすものにほかならない」とするのは美術批評家の椹木野衣さんが著書「感性は感動しない」で綴った言葉で、筆者も非常に共感する言葉です。本展で心が動く鑑賞者が少なからずいることは、優れた展覧会として考えることが出来ると思います。

展覧会の内容が分からなかった人のために「わからない収集BOX」と言うものが設置されていました。

わからない収集BOX

「わからない収集BOX」に投稿した内容はTwitterに連携される形で公開されます。投稿を見ると、理解している方の投稿も含まれていて、鑑賞後に見ると、味わい深くて楽しく感じるコンテンツです。

※筆者は自分の解釈で、楽しく理解することが出来た展覧会でした。

ミュージアムショップ

7階のミュージアムショップでは、本展のポスターや図録(予約販売)が行われています。
図録は12月末の発行予定で、価格は2,800円(税込)です。予約販売のみ送料無料で発送されます。(予約者限定のステッカー付)。

図録の台割りはなぜか1階フロアに掲示されていました。

また、以下の限定アイテム販売も行われていました。

①非常にはっきりとわからない:ドローイングサインポスターα<限定30枚>¥10,000(税込)
②非常にはっきりとわからない:ドローイングサインカタログα<限定50冊>¥20,000(税込)
※1点ずつドローイングの内容が異なります。

ドローイング付ポスター、同図録を購入しました〜目[mé]の活動資金として使用されるそうです。
※記載の金額は活動費だけが記載されたレシートです。

 さらに【目[mé]Book Sellection】という選書のコーナーでは、3冊の本が紹介、販売されていました。湯川秀樹「目に見えないもの」、「生物から見た世界」、「知恵の樹」の3冊です。本展を示唆するような選書です。

まとめ

インスタ映えを狙ったカメラ音が忙しない森美術館の人気作家展よりも、撮影NGで時間、行動、心を支配され、思考や価値観が大きく揺さぶられる本展を、強く推すものであります。
※とはいえ、多様な価値観が交錯する現代、本展に一切の興味を持たない鑑賞者もいることでしょう。もちろん、当サイトはそれらの方を拒絶したりアンチを唱えることは出来ません。

「Negative capabilityをテーマとした」と語る目[mé]荒神明香さん
2019年12月8日放送 NHK「日用美術館 アートシーン」より

「非常にはっきりとわからない」のタイトルが表すように、鑑賞者それぞれが展示内容を分かったにしろ分からなかったにしろ、受け取った各々の感覚はそのまま飲み込んで良いのだと思いました。

多くの人に足を運んで欲しいと思う展覧会でした。

概要

目[mé]

非常にはっきりとわからない – Obviously no one can make heads nor tails
会期:2019年11月2日〜12月28日
時間:10:00~18:00 金、土曜日は20:00まで
※入場受付は閉館の30分前まで

料金:一般1200円(960円)(税込)、大学生700円(560円)(税込)、小・中学生、高校生無料 ※会期中の再入場可能

主催:千葉市美術館