【ミラノサローネ】デザイン会社の社長と歩いた Milano Design Week 2025現地レポート

ギャラリーの代表という立場やアートコレクターとして、アートと社会の関係について考えています。
今回、インテリア・建築の分野で多くの実績と知見を持つプロスタイルデザイン社の代表からお誘いを受け、世界最大級のデザインイベント「ミラノサローネ」へ足を運ぶ機会に恵まれました。
本記事では、現代アートの視点から見たミラノサローネの空気感と、そこで得た気づきについて記録していきたいと思います。

ミラノサローネ(Salone del Mobile Milano)とは?

ミラノサローネ(Salone del Mobile Milano)は、毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大級のデザインイベント「ミラノデザインウィーク(Milan Design Week)」の主要展示会です。

スイスやパリ、香港で開催されているアートバーゼル(Art Basel)はたくさん見てきていますが、ミラノサローネのような国際的なデザインの展示会を見るのは初めてです。※ArtBasel(Basel)会場の様子はこちらの動画で視聴出来ます。アートフェアでは初日の開場前に行列が出来ますが、今回はミラノサローネ開場後すぐに到着しましたが、静かなスタートでした。

前半は業者、週末は個人のお客さんが多いようです。

同行したのは、建築だけでなく家具・照明・音響・アートなどを含む空間全体をトータルにプロデュースする「プロスタイルデザイン」というデザイン会社。現在、ある物件の設計デザインをお願いしているご縁から、今回同行させていただくこととなりました。ご一緒したのは、同社の代表である古賀社長。ミラノサローネに20回以上足を運んでいる、まさに“プロ中のプロ”です。

ミラノサローネは国際アートフェアのような販売展示会ではなく、基本的に「業者向け(BtoB)」の国際見本市商談会です。私たちが会場に入った初日には、個人のエンドユーザーは少なく、ブースも予約制が多かったため、一般の来場者にはややハードルが高い場面もありました。会期後半(主に金〜日)になると、一般来場者や学生が増加するそうです。

私のような初参加の個人にとっては、ブランドごとに丁寧な解説を受けながら会場を回れることは、とても貴重な機会となりました。ちなみに、今回見た展示の商品が日本で見られるのは、早くても今年の秋。照明などはPSE認証の取得に時間がかかり、2〜3年後になるそうです。

広大な会場展開

会場となる「Fiera Milano」はとても大きな施設で、東京ビッグサイトと幕張メッセを足しても及ばないほどの広さがあります。今回のミラノサローネは合計16のホールで展開されていました。

ミラノサローネ会場MAP〜Euroluceは黄色のゾーンで展開

会場内のブースは、どのブランドもとても広く設計されており、通路からすぐアクセスできるブースもあれば、完全にクローズドな空間をつくり、入場に制限を設けているブランドも多く見られました。そのため、ブース訪問の際には予約が必要なケースも多く、入場待ちの行列もあちこちで発生していました。

広く開かれている展示ブース

いわゆるアートフェアとは異なり、ブランドごとの出展規模が非常に大きく、金額のかけ方も桁違いです。中には、10億円以上をかけて施工されているブースもあると聞きました。

完全にクローズドな状態で展示していたブランド「edra」

奇数年に開催される「Euroluce」

2025年は奇数年のため、世界最大級の照明専門展示会「Euroluce」が開催されました。Fiera Milano内のホール2〜4および6〜10が該当エリアです。
偶数年には、EuroCucina(キッチン専門展示会)とInternational Bathroom Exhibition(バスルーム展示会)が開催される形式になっています。

「FLOS」のブースでは入場待ちの長い行列が出来ていました

「Saint-Louis」は久々の出展

fuori salone(フオーリサローネ)とは?

Fiera Milano会場内で行われるサローネに対して、ミラノ市内各地の施設で行われる展示やイベントを「Fuori Salone(フオーリサローネ)」と呼びます。
イタリア語で「fuori=外」を意味し、街全体を巻き込んだ一大デザイン週間となっています。

最も注目度が高いエリアイベント「Brera Design Week」

なかでも特に注目度が高いのは「Brera Design Week」。ほかにもTortona、Isola、Porta Venezia、5Vieなど、複数のエリアディストリクトでイベントが開催されます。近年では、Fiera会場での展示よりもFuori Saloneでの発信に重きを置くブランドが増えているとのことでした。例えば、Baxterのショールームはミラノ市内の旧映画館を改装した建物を使っており、常設空間としての魅力が活かされています。

「Baxter」の店舗はミラノ市内の旧映画館を改装してできたショールーム。

Fiera会場のブースはサローネのために施工されますが、6日間の会期終了後には取り壊される運命を辿ります。多額の費用を短い期間で消化するよりも、ミラノの市内に常設のスペースを構えることで長期間の取組とし、サローネ期間中にイベントやパーティを行って他のブランドから遮断する環境で開催することで顧客とのエンゲージメントを深める等の狙いがあるそうです。

「Molteni」の新店舗は大混雑でした。

私たちも今回の視察では、Fiera会場は1日、それ以外の日程はミラノ市内や近郊での視察に時間をかけました。

注目ブランド

今回の滞在を通じて、個人的に興味を持ったブランドをご紹介致します。
今年のトレンド色として、モスグリーンやテラコッタなどの自然色が多く採用されていた点が印象的でした。

Baxter

​Baxter(バクスター)は、1989年にイタリア・ブリアンツァで創業された高級家具ブランドです。​特に上質なレザーを使用したソファで知られ、自然な風合いと肌触りを追求しています。​Baxterの家具は、ソファだけでなく、テーブル、キャビネット、ラグなど多岐にわたり、いずれもハイセンスで上質な世界観で空間を演出します。

Paola Lenti

1994年にイタリア・ミラノで設立された家具ブランドで、女性創業者であるパオラ・レンティはグラフィックデザイナー出身です。彼女のものづくりは、デザインではなく素材から始まるのが特徴で、高耐久な屋外用のファブリックや独自の繊維素材を通じて、独創的かつ機能的なアウトドア家具を世界に発信しています。

Poltrona Frau

Poltrona Frau(ポルトローナ・フラウ)は、1912年にイタリア・トリノで創業された高級家具ブランドです。伝統的な職人技と現代的なデザインを融合させ、上質なレザー「Pelle Frau®」を用いたソファやチェアで知られています。このレザーはフェラーリやマセラティなど高級車の内装にも使われており、世界的な評価を獲得しています。

Bocci

Bocciは、2005年にカナダ・バンクーバーで設立された照明ブランドです。​手吹きガラスのペンダントライトは、アートと機能性を融合させた作品として評価されています。​Bocciの照明は、空間に詩的な光をもたらし、多くの支持を受けています。

Bomma

Bommaは、2012年にチェコ共和国で創業された照明ブランドです。​ボヘミアガラスの伝統技術を継承しつつ、革新的なデザインを展開しています。​手吹きによるクリスタルガラスの照明は、細部まで緻密にデザインされ、透明度の高い美しい光を放ちます。現在は、世界中のインテリアシーンで注目されています。

アートとインテリアの関係性

今回の視察で最も印象的だったのは、インテリア業界における「表現」の扱い方でした。
家具や照明といった要素が、空間全体の色彩や構成と統合されており、どれも演出性の高い展示となっていました。

Baxter

大胆な色使いを恐れない一方で、最終的には落ち着きや調和に着地させるセンスを持っており、赤やパープル、オレンジ、グリーンなど、インパクトのある色味を使いながらも嫌味なく、美しく空間に溶け込んでいる展示が多く見られました。

bocci

さらに興味深かったのは、家具や照明と並列して、アート作品を空間内に配置しているブランドが非常に多かったことです。
アートは壁面装飾として置かれるだけでなく、空間全体のコンセプトや雰囲気を支える存在として扱われていました。それは、“飾るもの”というよりも、“共にあるべきもの”としてアートを捉えているようにも感じられました。

Molteniにて

インテリア業界におけるアートの位置づけは、日本国内での一般的な「特別なもの」「敷居の高いもの」といった印象とは異なり、むしろ日常に自然に組み込まれるものとして、より実用的かつ親密な関係性で取り入れられているように感じました。

DRAGA & AUREL(ドラガ&オーレル)のアート作品〜Baxterショールームにて

世界規模で見る「アート市場」と「インテリア市場」

ミラノデザインウィークの全体を通して感じたことは、現代アート関係のイベントとは圧倒的にスケールが違うという点です。そもそものマーケット規模の違いによるものですが、以下に最新の調査結果から両者を比較してみました。

市場規模の比較(2024年)

分野 世界市場規模 日本市場規模 世界シェア
現代アート 575億ドル 約6.8億ドル 約1%未満
インテリア(家具+照明) 約7,700億ドル 約315億ドル 約4%

出所:Art Basel&UBS Global Art Market Report 2025、Statista、IMARC、Allied Market Research(2023〜24)

特記事項

    • 現代アート市場は取引件数は増加するも、売上は高額帯の縮小により前年比マイナス成長(-12%)
    • インテリア市場は安定成長。家具は+6%、照明はLED普及により+10%以上の伸び
    • 日本はアートではニッチ市場だが、インテリアでは世界有数の消費国に位置

今回のミラノデザインウィークでは、会場やミラノ市内に日本人の関係者が多く見られました。インテリア業界での日本のポジションは高く、日本の市場で評価されれば中国を含めたアジア圏にも波及していくそうで、その存在感は高いです。古賀社長と同行した私たちも、各所で丁寧な説明を受けたり、エスプレッソでもてなしていただいたり、ストレスなくブランドを巡ることが出来ました。
日本の代理店担当者も現地入りしてショールームに立っていたり、不動産関係者やインテリア関係者などの業界関係者も団体で行動するなど、かなりの規模感を感じることが出来ました。スイスのバーゼルで行われたArt Baselではほとんど日本人を見かけなかったのとは対照的です。

Paola Lentiでは、大型のベンツで送迎していただきました。

おわりに

今回の視察では、デザイン・インテリアの世界における表現の多様さと、空間全体で伝える姿勢の強さを実感しました。照明や家具といったプロダクトは、単体で語られるのではなく、色彩、素材、構成、そしてアートと共に一つの空間として組み上げられており、その演出力は極めて高いものでした。ブランドごとの世界観が街のなかにまで広がるfuori saloneの形式や、6日間のためだけに巨額の投資が行われるFiera会場のスケールにも、グローバルに顧客と深く繋がろうとする強い意志が感じられました。

また、照明や家具が作品と同じレベルで空間に配置されていたこと、そしてそれらが“日常の一部”として扱われていたことは、インテリアと美術の領域の距離について改めて考えるきっかけとなりました。現地を歩くなかで印象的だったのは、装飾的な要素も含めて、すべてが日常に寄り添うような感覚で扱われていたことです。

実際、各展示会場ではお茶やコーヒーがふるまわれ、まるで生活の一部を切り取ったような空間が演出されていました(リラックスしすぎて、そうしたシーンの写真を撮り忘れたほどでした)。その絶妙なセンスと空間のつくり方からは、学ぶことの多い気づきが得られました。

Milano Design Weekは、インテリア業界の方だけでなく、展示空間づくりやブランド戦略に関心のあるすべての方に参考になるイベントだと思います。

概要

Milano Design Week 2025(ミラノデザインウィーク)

■メイン展示会:Salone del Mobile.Milano(サローネ・デル・モービレ・ミラノ)
会場(メイン展示):Fiera Milano, Rho(フィエラ・ミラノ/ロー会場)
住所:Strada Statale del Sempione, 28, 20017 Rho MI, Italy
会期:2025年4月8日(火)〜4月13日(日)
時間(Salone会場):9:30 〜 18:30(業界関係者優先)※4月13日(日)のみ一般公開日
特別展示:Euroluce(ユーロルーチェ) 〜 世界最大級の照明ビエンナーレ展示
出展企業:約1,950社

■ 市内同時開催イベント(Fuorisalone):
Brera/Tortona/Isola/5Vie/Porta Veneziaなど、ミラノ市内各所にて多数開催
※入場無料の展示も多数。ブランドショールーム、ギャラリー、歴史的建築などを利用

■ 公式サイト: