東京2020 公式アートポスター
2020年の1月6日、東京2020オリンピックの公式アートポスターのお披露目がありました。
東京2020大会では、オリンピック、パラリンピックをテーマにした芸術作品を国内外のアーティストに制作依頼し、東京2020公式アートポスターとして機運醸成に活用されます。
20世紀初頭から、各大会の組織委員会は、オリンピックというスポーツ・文化イベントへの認知と理解を促進するために、ポスターを制作してきました。また、オリンピックのポスターは、各大会の特色を世界に伝える役割も果たしています。
近年では、パラリンピックのポスターも含め、国際的に活躍するアーティストやデザイナーを起用し、各大会の文化的・芸術的レガシーとなる作品を制作するようになりました。その中からは、時代のアイコンとなるような作品も生まれています。
制作された20作品を以下に全掲載いたします。
オリンピック12作品
浦沢直樹 (漫画家)
日本にはスポーツ漫画という、世界にあまり類を見ない漫画のジャンルが存在します。これは日本漫画が発展・隆盛していく上で大きな役割を担いました。スポーツ観戦のワクワク感が日本の週刊漫画という掲載ペースにフィットしたためです。手に汗握るスポーツの興奮をいかに漫画で伝えることができるか、漫画家はそれに挑戦し続けてきました。
「次号につづく!」。読者は毎週、次回の展開をまるで本当の競技の行方のように見守るのです。
これはオリンピックのために描きおろした漫画です。競技・人種・性別を超越した描き方に挑戦してみました。すべての人に出番があります。次はあなたの出番です。
大竹伸朗 (画家)
宇宙空間を光速で飛び交う色とりどりの天体ボール群・・・キラめく極彩色と神々との一期一会の戯れ・・・地上を遥か離れてそんなオリンピック光景を妄想していた。
唐突にピンク色の人形が現れた。
マバタキもせず飽きもせず淡々と真っ赤な球体を蹴り上げている。
そいつは「遊びの神」なのか?
1964 年東京オリンピック時に通っていた小学校で「切り絵」を習ったことを思い出した。頭に浮かぶ妄想宇宙を「切り絵」で表現してみようと思った。
アトリエに散らばる色紙や印刷物、描きかけの絵を適当に切り抜いて宙に放り投げた・・・ハラハラと色の欠片が落ちた先にザックリと「スペース・キッカー」が現れた。
大原大次郎
視線、放物線、境界線、伏線……。この世界には、さまざまな線が交差している。その無数の線たちは時に絡み合ったり、ほどけたりしながら、環境や心身の中で像を結んでいく。
本作では、ギリシャから継承された聖火を起点に東京2020オリンピック聖火リレーで紡がれる動線と、その結び目となる800を超える市区町村名を描いている。
世界中の第一線のアスリートが集い競技を行う祭典と一個人を結ぶ線は、いったいなんだろう。繋がったり途切れたり、大きな事象と個を結ぶ線を手繰り寄せることは、とても難しい。そんな一筋縄ではいかない線が錯綜する多様な世界でもなお、一人ひとりの琴線に触れる芸術や身体が湧き立つような場が存在することに、希望を持って臨みたい。
金澤翔子 (書家)
アスリートの魂と大会を支える全ての人々の思いがここ東京から空高く羽ばたき世界中の人に届くことを願って。
まばゆい光が差し込む書は選手の躍動感をイメージしました。背景には日本の優れた工芸技術である本金箔を配しています。書の立体感を表現するため、陰影に至るまで細部にわたってその全てが本物であり、解き放たれたエネルギーと、書や伝統技術を一つに融合させ“ニッポンらしさ” で東京オリンピックを表現しています。
鴻池朋子 (アーティスト)
人間は一匹の動物として一人一人全部違う身体を持ち、全て違う感覚で世界をとらえ、各々の環世界を通して世界を生きている。それらは一つとして同じものがない。同じ言葉もない。同じ光もない。オリンピックがそのことに腹をくくって誠実に取り組めば、小さな一匹にとって世界は官能に満ち、やがて新たな生態系が動きだす。
佐藤卓 (グラフィックデザイナー)
別々のところにある五つの輪が、それぞれの輪の中心から出る軌跡の通りに移動すると、五輪のマークになります。世界から集まるアスリート達が、ひとりひとりの個性を持ちながら(多様性)競い合い(自己ベスト)、その総体が最終的に五輪という調和のとれた姿になることを期待した“未来”を、ここに表現しました。つまり、ポスター自体は映像のようには動きませんが、これを見たときに頭の中で起こる動的なイメージを想像して、制作しています。
全面手描きの表現にこだわったのは、オリンピックが身体の限界に挑む競技だからです。現代はとかく脳で考えることが優先され、身体性を忘れがちであることに対するメッセージも、そこに込めています。
野老朝雄 (美術家)
東京2020エンブレムの[組市松紋]は、オリンピック・パラリンピック共に菱形の中点を結び抽出された矩形を同数組み合わせて描いた藍色の円相です。藍色は印刷に於いての耐候性に優れ、時間を経ても残る強く美しい色の一つです。
[個]としての矩形が幾何の[律]を伴い[群]を為す図。コンピューターの技術と手作業の混合によって成立しています。1964年に行われていたコンパスと定規に依る設計に敬意を表し、未来にはどのような技法で設計が行われているのかを想像し、2020年に生きる作家として次の世代以降に手渡すバトンをつくりました。手で原図をつくることによって紋が現れるまでの補助線や痕跡が視覚化され、また、その線に身体性も投影されます。
アスリートに大きな敬意を表し、全力で大会のシンボルをつくりたいと思いました。
ホンマタカシ (写真家)
オリンピックは選ばれた選手だけのモノではないと考えます。老人から大人、そして子供まで全国民のコトであり、希望であり、記憶に残るモノだという想いで制作しました。
テセウス・チャン (アートディレクター)
もともと反逆的なストリートカルチャーから生まれたスケートボードが、オリンピックの1競技になるとは、これまで考えられなかった。スケートボードは独自の言語を持ち、比較的新しいスポーツとして進化し続けている。またアート、デザイン、ファッション、音楽の合成物であり、そこには独自の表現方法もある。
作品は三層で構成した。まず、反逆精神から発想を得たExtreme Revelation(危険な啓示)の層。スケートボードのグラインドの跡が筆跡のようにデフォルメされ、完璧さを求めて試行錯誤が繰り返されている。次に、コンクリートやメタルなど、スケートボードというスポーツを連想させる素材の積層で、不確実性や暗闇、抑圧を表現。ただし、内から湧き出るような極彩色で、抑圧することのできない若さや生意気さも描き出している。三層目はほとんど見えないが、数字や比喩的なグラフィックの謎めいた反転が、既存の秩序とは価値あるものなのかと問いかけている。
クリス・オフィリ(アーティスト)
ヴィヴィアン・サッセン (写真家)
遊び心があり、色彩豊かで、意義深い作品を作りたいと思いました。競技の喜びを描き出すことを意図していますが、他にも、オリンピックに参加する人々の文化や国籍の多様性を伝えたいと考えました。カラフルなインクの大きな水玉模様は、オリンピック・シンボルの輪をイメージしたものです。オリンピックのアイコンを抽象化し、再構築してみました。
フィリップ・ワイズベッカー (アーティスト)
数か月前、組織委員会から東京2020大会のポスターを制作してほしいといわれた時、はじめは「なぜ静物ばかり描く私が選ばれたのだろう?」と思いました。どうすれば良いか全くわからなかったのですが、こんな栄誉あるご依頼をお断りすることは、無論できません。エージェントの貴田奈津子に手伝ってもらい、オリンピックにまつわる要素をインターネットで探してみました。新国立競技場の画像を見つけた時、これは試してみる価値のある素材だと思いました。そして資料をいただき、多数のスケッチを描いた後、ようやく納得できる作品を仕上げることができ、日本に送りました。それから数週間後、印刷所の方から校正刷りを受け取ったのですが、改めて見直してみると、どうも満足がいかない、と感じてしまったのです。それはいかにも、大胆さや本質性に欠けていたのです。締め切りの期限が迫っていたのですが、特別にご無理をきいていただき、最初からやり直すことができました。開催地が日本ということもあり、和紙に描くことにしました。和紙は普段から作品制作によく使っています。そして手の赴くままに、オリンピックスタジアムの姿を描きました。
パラリンピック8作品
荒木飛呂彦(漫画家)
荒波のような雲。
スポーツの神々が上空から日本へ
舞い降りるイメージで描きました。
葛飾北斎-「神奈川沖浪裏」の構図をモチーフに、
富士山を何色に塗るか悩みましたが、
ハチミツ色に塗りました。
柿沼康二 (書家)
3000年以上の歴史を持つ書は、日本文化芸術の大きな柱の一つです。その書の歴史を探求し、現代を生きる書の模索と発表を続けてきました。東京2020オリンピック・パラリンピックのアートプロジェクトに際し、何万もの漢字、また無限の言葉の中から何をモチーフにするべきか葛藤した結果、辿り着いたものが「開」の一文字でした。
「全身全霊が宇宙に向かって無条件にぱーっとひらくこと。それが爆発だ。」芸術家・岡本太郎の創造への挑戦と哲学を示す言葉がこの作品の根底をなしています。自身の頂きへ日々挑むアスリートの魂を胸に、「ひらけ!ひらけ!ひらけ!…」と自分自身が完全に開ききるまで筆を紙に叩き込みました。日本開催の世紀の祝祭、世界から集うアスリートやスポーツ関係者のみならず、大会を支える私たち一人ひとりが可能性に向かい大きく心を開き、この平和の祭典を未来に継承できることを願います。
進む、前へ。
ひたむきに前へ進み続けようとする人類の祈りは、
肉体の限界を超え、障がいを超え、国籍、性別を超えて躍動する。
2020年、いまこの時を生きる生命、
その全てが等しく、美しい姿を象徴的に描きたいと思った。
メインモチーフは「前に進む人」。
大きく腕を振り、力いっぱい地面を蹴り上げる姿。
プリミティブなその運動の造形は、より確かな未来を目指して、
前に進もうとする全てのパラリンピアンたちの意志を表すものである。
選手ひとりひとりが積み上げてきたもの。
試行錯誤をし、進歩し続けてきた人類の歴史、その全てに敬意を表して。
GOO CHOKI PAR(グラフィックデザイナー)
進む、前へ。
ひたむきに前へ進み続けようとする人類の祈りは、
肉体の限界を超え、障がいを超え、国籍、性別を超えて躍動する。
2020年、いまこの時を生きる生命、
その全てが等しく、美しい姿を象徴的に描きたいと思った。
メインモチーフは「前に進む人」。
大きく腕を振り、力いっぱい地面を蹴り上げる姿。
プリミティブなその運動の造形は、より確かな未来を目指して、
前に進もうとする全てのパラリンピアンたちの意志を表すものである。
選手ひとりひとりが積み上げてきたもの。
試行錯誤をし、進歩し続けてきた人類の歴史、その全てに敬意を表して。
新木友行 (アーティスト)
いろんな競技がある どんな競技を描こうか
試合を生で観戦して胸に響いた車いすバスケットボールを
描こうと決めた
選手同士のあついあつい試合 凄いスピード感や力強さ
色は元気になる明るい色を
あつい試合を観客のみんなが楽しんで観戦している
選手が力いっぱいたたかっている
その力づよさを明るい色を使いながら描いた
作品をみていただき
元気なひとはもちろん いま元気がないひとも
さらに元気やパワーをもらって
パラスポーツの素晴らしさや競技の力
選手たちの勇気を感じていただけることを
心から願っています
野老朝雄 (美術家)
東京2020エンブレムの[組市松紋]は、オリンピック・パラリンピック共に菱形の中点を結び抽出された矩形を同数組み合わせて描いた藍色の円相です。藍色は印刷に於いての耐候性に優れ、時間を経ても残る強く美しい色の一つです。
[個]としての矩形が幾何の[律]を伴い[群]を為す図。コンピューターの技術と手作業の混合によって成立しています。1964年に行われていたコンパスと定規に依る設計に敬意を表し、未来にはどのような技法で設計が行われているのかを想像し、2020年に生きる作家として次の世代以降に手渡すバトンをつくりました。手で原図をつくることによって紋が現れるまでの補助線や痕跡が視覚化され、また、その線に身体性も投影されます。
アスリートに大きな敬意を表し、全力で大会のシンボルをつくりたいと思いました。
蜷川 実花 (写真家・映画監督)
鳥海連志選手と私、カメラだけが存在する空間で、
ただただシャッターを切った。
パラアスリートはかっこいい。
シンプルなその思いを込めて撮影した1枚。
なにもない空間から作品が生まれるように、
あらゆることを超えるはじまりは、なにげないところにある。
森 千裕(美術家)
棒グラフのようなビル街
内臓のようなジャンクション
歯肉のような踏み心地のする街
新ウルトラC誕生の陰で
小脳を脳ベラで押してみる
カラフルなヌカルミ
温められた骨とビル風
空気のバネ
透明なカーブ
山口 晃 (画家)
概要
東京2020公式アートポスター展
出品作品:東京2020公式アートポスター計20作品
(オリンピックをテーマとする12作品、パラリンピックをテーマとする8作品)
会期:2020年1月7日(火)~2月16日(日)(36日間 休館日除く)
会場:東京都現代美術館 エントランスホール
開館時間:10:00~18:00
休館日 月曜日、2020年1月14日 2020年1月13日(月・祝)は開館
観覧料:無料
主催:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会、東京都、公益財団法人東京都歴史文化財団、東京都現代美術館