「原三溪の美術 伝説の大コレクション」
原三渓展にお伺いしました。会場は横浜美術館です。
原三溪(1868〜1939年)は、生糸貿易や製糸業などで財をなした実業家です。
原三溪は、実業家の一方で独自の歴史観にもとづき古美術品を精力的に収集したアートコレクターでありますが、自らも書画・漢詩をよくしたアーティストであり、同時代の有望な美術家を積極的に支援し育んだパトロンでもありました。
様々な顔を持つ原三渓ですが、本展は「コレクター」「茶人」「アーティスト」「パトロン」4つの側面から展開する美術展です。
アートコレクターとして原三渓を見てみる
本展のレビューは色んな記事で取り上げられていますので、Burartらしく「アートコレクター」としての視点でまとめてみたいと思います。
巨額のコレクションマネー
なんと言っても本展最大の注目作品は国宝《孔雀明王像》 です。
明治36年に当時の大蔵大臣、井上馨から「1万円」で入手した国宝です。
当時の1万円というとイメージが掴みにくいかも知れませんが、月に6円もあれば暮らせる時代なので、あり得ないほどの大金です。現代の相場に換算すると数千万級の価格帯と考えられます。
当時は、5,000円でも無謀だと言われていたそうですが、さらにそれを超える価格帯での購入は、周りに大きなインパクトを与え、コレクターとしての存在感を大きく示したように映ります。
徹底した作品管理
コレクターとしての原三渓に学ぶ点の大きな1つは、コレクションした作品の徹底した管理(レジストレーション)です。作品ごとにキチンと記録を残しており、本展でもその記録を見ることが出来ます。
コレクション作品の管理はもちろん、購入のために資金調達した記録も残されています。
例えば、《孔雀明王像》購入の際、購入価格の1万円を調達するため、私財を13,000円分売却した記録が残っています。
筆者もそうですが、作品の管理方法に悩んでいる周りのコレクター仲間もはとても多いです。
作品の来歴や情報管理は、コレクターとしてキチンと記録し、次の時代に引き継いでいかなければなりません。原三渓に学ぶところは大きくありました
ちなみに筆者はEvernoteというクラウドサービスを使用しています。無料のツールで画像の貼り付けやタグ付けなどが容易に出来ますが、納得出来る管理方法とは、まだ少し距離があります。
パトロンとしての役割
同時代アーティストへの支援も原三渓の大きな取組の1つです。
作品の買い上げだけではなく、生活費の工面や、渡航費などの支給など、その範囲は広かったようです。
筆者は、ギャラリーに所属していない学生作家さんなどは、直接作品を購入することもあります。
しかし、今の時代に生活費までを工面して支援しているコレクターっていらっしゃるのでしょうか?ビッグコレクターさんでもあまり聞かないですね。
まとめ
原三渓は、素晴らしい美術品を私たちに遺してくれました。
一方で、そのコレクションにまつわる一連のコレクター活動を知ることが出来ました。
鑑賞後は、自身のコレクション管理を今一度振り返る機会に繋がりました。
一部のWEB事業者では、ユーザーのコレクション管理に関わるサービスを提供しはじめています。
画像付きで管理できる現代の場合、原三渓の時代と違って、デジタル形式での管理が主流になりそうです。
現代のアートコレクターが共通して使えるプラットフォームやツールの登場が待たれます。
概要
横浜美術館開館30周年記念 生誕150年・没後80年記念
「原三溪の美術 伝説の大コレクション」
会場:横浜美術館
会期:2019年7月13日(土)〜9月1日(日)
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は17時30分まで
※毎週金曜・土曜は20時まで開館 ※入館は19時30分まで
休館日:木曜日