【VOCA展2019】田中武作品《花のたとえ、嵐のたとえ》〜過去作や歴史的作品と対比して鑑賞する

田中武作品《花のたとえ、嵐のたとえ》

本サイトでもたびたび取り上げている推しの日本画家、田中武さん。
画面構成の妙やモチーフの意外性、躍動感のある描写力など、作品の深みがコレクション魂を刺激する作家さんです。

VOCA展2019でも推薦作家として出品されていましたので、楽しみにお伺いしました。VOCA展の他出品作は下記よりご覧下さい。

VOCA展2019〜展示風景

VOCA展2019で出品された田中武さんの作品は《花のたとえ、嵐のたとえ》という大型作品。
人物や動物をメインのモチーフに据えることの多いイメージがある中で、画面いっぱいに咲き乱れるカーネーションが美しく印象的な作品です。
※筆者的には今までに見られなかったモチーフという点で、少し意外な作品という印象でした。

田中武《花のたとえ、嵐のたとえ》2019年 240cm×400cm アクリル絵具、高知麻紙

炸裂する花弁は何かを表現しているようで、青空ではないグレーがかった不穏な背景の色味も含めて不安定な状態を語りかけてくるようです。
汚染処理土を想起させる土嚢から茎がまっすぐに伸びて一面に花咲くその光景。
よくみると作品下部に月の像を確認することが出来ます。

これは、日本美術の名作を現代的なアレンジで独自に消化していく田中武さんらしいアプローチで、《武蔵野図屏風》をオマージュしているような草の間に沈むような月の配置が確認出来ます。

[twenty20 img1=”14845″ img2=”14844″ offset=”0.5″ before=”《武蔵野図屏風》作者不詳  江戸時代前期 紙本金地着色 六曲一双”]

一方で、土嚢と言えば田中武さんの代表的な作品《斉唱 ~神7の唄~》 をすぐに想起することが出来ました。

田中武《斉唱 ~神7の唄~》 280×390㎝ 2017年  麻紙、アクリル絵具、水干絵具、墨 ※西治コレクション所蔵

円山応挙《七難七福図》からインスピレーションを得、小磯良平《斉唱》や日本二十六聖人記念碑《昇天のいのり》をベースにして描いたという大作です。

田中武さんの作品は歴史的な美術作品を引用したり、現代社会への風刺や警鐘を織り込んでいるイメージが強く印象に残ります。
《斉唱 ~神7の唄~》 もそうですが、原発問題をサラッとした感覚で描いているところの巧さがあります。

田中武《花のたとえ、嵐のたとえ》展示風景〜右作品は目《アクリルガス》

VOCA展2019の出品作《花のたとえ、嵐のたとえ》は、過去作の基本的概念を継承しつつも、新しい取り組みへステップアップを進めている印象です。

作家・田中武様コメント
「今回は今まで大作で描いてきた人物や動物をモチーフとして使わずに作品を描くという目的がありました。
また、原発における現状を描くのは原発批判をする為ではなく、自分がこの国で置かれている現状を確かめる為の行為の一つでもあります。
黒いピラミッドと呼ばれる土囊袋がこの地に増え続けていくかぎり、この絵の続きを描いていきます。」

田中武さんの進化をこの目で確認していくよう、今後も継続的にチェックしてみたいと思います。

概要

VOCA展2019 現代美術の展望─新しい平面の作家たち
会場:上野の森美術館
会期:2019年3月14日(木)〜3月30日(土)
会期中無休
開館時間:午前10時─午後6時(入館は閉館の30分前まで)
*3月21日(木祝)は13:00開館
入館料:一般600(500)円/大学生500円/高校生以下無料

会場:上野の森美術館