【個展】絵画と写真の狭間〜小瀬村真美「幻画~像(イメージ)の表皮」原美術館

小瀬村真美「幻画~像(イメージ)の表皮」

小瀬村真美さんの個展に伺ってきました。会場は原美術館です。タイトルは「幻画~像(イメージ)の表皮」。幻の絵画、というようにドローイングもペインティングも展示はありませんが、絵画のような作品が鑑賞出来る展覧会でした。

[ギャラリーI] 導入、はじまりの部屋~ドローイングワークとして制作された『Veil』とともに、各作品のはじまり、またはおわり(きっかけ、または残骸)

入口から入ってすぐ、一番最初に用意されている小部屋は「はじまりとおわりの部屋」。この部屋から本展覧会が始まり、そして終わります。意味深なタイトルですが、展覧会を巡っていくうちにこの部屋の意味が理解出来ることでしょう。

最初の作品はガラスの花瓶がただ映っているだけの作品です。

絵画と写真と映像を繋ごうという小瀬村さんの表現は、振り子のように始まりと終わりを繰り返す営みのように感じます。

この部屋には鑑賞後の締めに再び訪れると、見え方が変わります。

[ギャラリーII] 西洋絵画の部屋~初期から最新作まで、写真も映像も並列に「展覧会の絵」をイメージ

2つ目の部屋は「西洋絵画の部屋」。絵画の部屋とクレジットされていますが、全て西洋絵画をモチーフにしており、写真を元に作られた小瀬村真美さんの最新作品です。
まずは「薇」という2003年に制作された9分25秒の映像作品です。画家フランシスコ・デ・スルバランによって制作された作品「オレンジ、レモン、水のはいったコップのある静物(1633年から1633年)」を模倣しています。
リアルのオレンジやレモンを用意し、「インターバル写真」によって時間をかけて撮影し、PCで繋ぎ合わせたアニメーション作品です。小瀬村真美さんのインターバル写真は、長いもので30分〜2時間の間隔でシャッター切る設定とのお話し。これをPCで処理、場合によってはドローイングを重ねていくわけですので、気の遠くなるような手間と時間が掛かっているのですね。
作品は、時間の経過と共にオレンジやレモンは腐敗していきます。ティーカップまで割れていることにも注目ですね。
※下の画像は中央のポインターを左右にスライドして比較するものです。時間の経過と共に変化していく様子をご覧下さい。

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朽ち果てた被写体もそうですが、最後の方では作品自体も劣化していくような演出が施されています。この作品に効果音のような音声も組み合わさっているのですが、これもまた良い感じで鑑賞者に迫ってくる興味深い作品でした。

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続いての作品「粧」は7点組の作品です。

「粧」 ジクレープリント 2018 年(7点組)。 手前から奥に行くに従って花瓶に生けられた花の数が増えていき、やがて枯れていく流れの展示です。

この作品も1ヶ月の期間をかけて撮影されたものですが、その過程を7枚の連続写真としてみせています。

最新作「粧」ジクレープリント(2018年)

良く見るとこのガラスの花瓶、最初に見た作品ですよね。でも、最初に見た作品をよく確認すると、花瓶の口はごくごく小さいサイズ。それに対して、生けられている花は時間の経過と共に数を増やしていきます。とても入りきれる数ではありませんが、きちんと花瓶に収まっているように見えます。不思議ですよね。これ、「花瓶に挿しているように見せている」トリックなんです。実際は花瓶の外側に固定して「挿しているように見せている」と言うことなんだそうです。

「粧」ジクレープリント(2018年)

実際に撮影時に使われた花がドライフラワーになって展示されていました。

ガラスケースが割れていました。

次に下に掲載した作品「餐」。こちらも絵画を装った写真作品なのですが、ここにもトリックが複数仕組まれています。分かりますでしょうか?
食卓と思われるテーブルの上に、不自然なほど沢山の花と果物が置かれていますね。季節を無視した花やフルーツが同時に並んでいるんです。これは4ヶ月間に渡って撮影され、撮り溜めた写真を「凝縮」して1枚の絵画に見立てています。

「餐」ジクレープリント 2018 年

作品に使用したアイテムの展示や制作過程をさらけ出すネタバレ的な行為は、作品の構造や裏をさらけ出す意味や自己検証的な機能を含んでいます。

傍らのコーナーには撮影に使用したフルーツ(ドライフルーツ)も展示。

さらに、5つの人物画が掲出されている作品も絵画と見せかけたビデオ作品です。

下記の比較画像のように、まばたきをしたり口元が動いたり変化を見ることが出来ます。モチーフになった作品はピサネロが描いた「エステ家の公女」という人物画ですが、目元は日本人風にアレンジされているようです。
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「Veil」 ビデオ 1分 ※中2階に展示

[ギャラリーIII] 人物の部屋~episode 3 呼吸の音

美術館の2階フロアに移動して3つ目の部屋に入ります。椅子に座って眠っている小瀬村真美さんが映っています。音声は寝息が聞こえ、そのまま時間が経過していきます。そして画面に映っている部屋の中の様子が変化していく作品です。

「episodeⅢ」8分30秒 ビデオ

[ギャラリーIV] ニューヨークの部屋~絵画からの拡張とラフな実験

4つ目の部屋は小瀬村真美さんが2016〜2017年にニューヨークで滞在制作をした際の作品が集められた部屋です。
「Pendulum」と言う作品はチェルシーにあるタウンハウスの1室を映像化した作品です。カメラを振り子に見立てて「判然としない」動きが収められています。写真を絵画に見せるクリアで明快な作品とは対照的で、揺れ動くファジーで曖昧な映像が印象的でした。

「Pendulum」ビデオ 20分 2画面投影

振り子をイメージしたのでしょうか。綺麗なオブジェ。

[ギャラリーV] 黒い静物画の部屋~おわりに向かって、動く映像から静止画

最後の部屋は今までの流れとは一転、瞬間的な出来事を長編のストーリーに仕上げる作品「Drop Off」が大画面で投影されていました。
この作品はテーブルの上に並んでいる静物ですが、上から次々のモノが降ってくるなどのアクションが展開されていくのですが、ハイスピードカメラで撮影されており、4秒間の出来事を12分の映像作品に仕上げている作品なのです。最後の部屋と書きましたが、また階下に降りてはじめの部屋に戻ってみて下さい。らフィニッシュするという段法

「Drop Off」 4Kビデオ12分 2015年

「Drapeシリーズ」 ジクレープリント 2013年〜2014年

おまけ〜夜間上映プログラム

水曜日夜限定で鑑賞出来る企画に参加しました。3作品がループで投影されている企画で、原美術館の奥にある「ザ・ホール」で開催されていました。こちらも小瀬村ワールド全開でした。

さいごに

さて、「はじまりとおわりの部屋」、もう一度立ち寄っていきました。はじめに見たときに、なんだか分からなかったことが最後にまたこの部屋に来ると「あぁ、そういうことか!」と言うことが分かるのです。思わずニヤリとしてしまいますが、始めと終わりが繋がっている部屋なのですね。

概要

小瀬村真美:幻画~像(イメージ)の表皮
会期 2018年6月16日~9月2日
会場 原美術館
住所 東京都品川区北品川4-7-25
電話 03-3445-0651
開館時間 11:00~17:00 (祝除く水~20:00)
休館日 月曜日
観覧料 一般1100円、大学・高校生700円、小中学生500円、学期中の土曜日は小中高生無料
アクセス JR品川駅高輪口徒歩15分