Art Festival

【フォトレポート】After the Image|浅間国際フォトフェスティバル2026 PHOTO MIYOTA

ツタに覆われた建物のファサードに並ぶヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》
浅間国際フォトフェスティバル2026 PHOTO MIYOTA の入口サイン。キービジュアルはヘンリエッテ・サブロー・エベセンの《Growing Up》
MMoP の入口です。キービジュアルはヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》(2017–)。青い舌を出した子どもの一枚が、そのまま看板になっています。

浅間山の南麓、長野県御代田町。しなの鉄道の御代田駅から歩いて10分ほどの緩い坂の上に、MMoP という複合施設があります。芝生とグラス類の植栽が広がる敷地に、大きくプリントされた写真が屋外に展示されています。
浅間国際フォトフェスティバル2026 PHOTO MIYOTA、今年のテーマは「After the Image|イメージのその後」です。

写真はシャッターが切られた瞬間に完成するのではなく、見られ、共有され、記憶されていくなかで意味を変え続ける——そういうテーマを掲げた展示です。だからこのフォトフェスティバルは、写真をツタの壁に展示し、林の中に吊り、芝生に立て、風と雨と光に晒される場所に転じます。参加作家は国内外22組・展示作品数は約300点。

ツタの壁に、子どもたちが並ぶ

入ってまず目に入るのが、ツタに覆われた建物の壁面いっぱいに掛けられた大判のプリント群です。デンマークの写真家・映像作家ヘンリエッテ・サブロー・エベセンの《Growing Up》(2017–)。今年のキービジュアルもこの作品から採用されました。

ツタに覆われた建物のファサードに並ぶヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》
ヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》2017–。父のアルバムに残っていた写真と、彼女自身が撮った写真のコラージュです。左端の白い板が作品解説。

父親のアルバムに残っていた古い家族写真と、彼女自身がいま撮っている写真を、コラージュとして重ねていく仕事です。だからこの壁の前では、二つの時間が同じ画面のなかで押し合っています。ひまわりに囲まれたスーツの男、口紅のような唇がタイル状に反復する画面、動物の顔をした誰か。どれも「家族写真」という言葉から想像するものからは、少しずつずれていきます。

芝生越しに見るヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》のファサード展示
大きく出力された作品は全8点。ツタの緑が額縁のかわりをしているようです。
正面から見たヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》のファサード展示
建物の正面から。写真が建築の一部になっています。
ヘンリエッテ・サブロー・エベセン《Growing Up》のうち、青い舌を出した子どもの一点
キービジュアルになった一点。この一枚が入口の看板にも、道路沿いのサインにも使われています。町を車で通り過ぎるだけの人の視界にも入ります。
夕方のMMoP敷地。ファサード端の展示作品と芝生
日曜日の夕方に近い時間帯で、それほど混雑しておりませんでした。人が引いてからのほうが、屋外展示は良く見えます。

人の輪郭と、花火の粒子

展示室に入ると、正面に黒い衝立状の構造体が立っています。スウェーデン出身で東京在住のヨーガン・アクセルバル《Most likely the flames will destroy themselves / Looking Up》です。

MMoP 屋内エントランス正面のヨーガン・アクセルバルの展示。奥にタイヨ・オノラト&ニコ・クレブス《Water Column》が吊られている
ヨーガン・アクセルバル《Most likely the flames will destroy themselves / Looking Up》。奥の高い位置に吊られている二点は、タイヨ・オノラト&ニコ・クレブス《Water Column》です。

ぼんやりと浮かび上がる人の輪郭と、花火の鮮やかな爆発が散っていく瞬間のクローズアップが、同じ視界に並んでいます。どちらもポラロイドを大きく引き伸ばしたもので、フィルムの粒子やノイズまでが見えるようにしてあります。オレンジから黄へ流れる強い色の地に、白く抜かれた人影。輪郭だけなので、顔も服も分かりません。

ヨーガン・アクセルバルの展示の別の面。台座状のパネルに白い人影が浮かぶ
壁に掛けるのではなく、床に置いた箱の面に貼られています。自分の立つ角度で見え方が変わり、正面がありません。

奥に吊られた大幕はタイヨ・オノラト&ニコ・クレブス《Water Column》。紅海の研究施設でのレジデンシーから生まれた作品で、水中カメラと顔料とフォトグラムを使い、サンゴや貝殻を既存の写真の前に置いて撮り直しています。ピンクの粒が一面に散って中央に黒い円が空いた一点と、金と緑が渦を巻く一点。天井のトラスが剥き出しの空間なので、視線を上げないと全体が入ってきません。

林のなかでの展示

建物の裏手にまわると、林の小径に沿って大きな布が何枚も吊られています。こちらもヨーガン・アクセルバルの作品で、《Looking Up》です。ソラリゼーションの技法で、東京の空を横切る飛行機を撮ったシリーズ。
布は半透明で、後ろの木立が透けますし、風が吹けば揺れて、空の写真の上を本物の枝の影が渡っていきます。東京の空を撮った写真が、御代田の空に浮かび上がります。

緑・青・グレーの布が小径に沿って連なるヨーガン・アクセルバル《Looking Up》の展示
ヨーガン・アクセルバル《Looking Up》2022。緑の面の中央に、青い飛行機が二機。小径を歩くと緑、青、灰色と色が入れ替わっていきます。個人的にここがいちばん良かったところになりました。
パーゴラに帆のように渡された布のプリント。石橋英之《Trails》
パーゴラには石橋英之《Trails》(2020)。森を歩きながら撮った数百枚を、GPS の軌跡にそって重ね合わせた作品です。歩いた記録を、歩いて抜けます。

古い民族誌写真に、ゴジラが立っている

芝生にイーゼル状のパネルが点在するエリアです。ブラジル・アマゾンのバニワ族出身の作家デニウソン・バニワ《Colonial Fictions》(2021)。

デニウソン・バニワ《Colonial Fictions》。古い民族誌写真に青い怪獣が合成されている
デニウソン・バニワ《Colonial Fictions》2021。19世紀の民族誌写真に、ゴジラが立っています。

19世紀から20世紀初頭にかけて、西洋の探検隊や人類学者が「未開の民」を記録するために撮った写真です。そこにキングコング、ゴジラ、エイリアン、クラーケンといった映画のイメージが堂々と合成されています。

古い民族誌写真にマシュマロマンが合成されたデニウソン・バニワの作品
“59. In der Stromschnelle von Karaiuamelu, Rio Uraricuera” の急流に、マシュマロマン。キャプションは作品の中に残されています。
デニウソン・バニワ《Colonial Fictions》の日英併記の作品解説板
解説は日英併記で、屋外に一枚ずつ立っています。読みやすくて良かったです。

庭を歩く

林の縁に立つ遠藤文香《Kamuy Mosir》の大型パネル3点。白い蛇、獣の眼、岩肌の赤い円
林の縁に3点。遠藤文香《Kamuy Mosir》(2020)です。白い蛇、馬の眼、岩肌に滲む赤。コロナ禍で社会とのつながりが断たれた経験から始まったシリーズで、「自然」と呼んでいるものの多くが人の営みと切り離せない、という問い直しがあります。奥に浅間山が見えるロケーションです。
園路脇の横長パネルに並ぶアーカイヴス《Vanitas》の静物写真3点
園路の脇に、横長のパネルで静物が3点。アーカイヴス《Vanitas》です。果物やゲーム機やタブレットが並ぶこの静物は、すべて AI が生成した架空のイメージで、ブランドロゴに見える文字もどれも実在しません。
MMoP の園路からファサードの展示を望む
園路からファサードを望みます。植栽があちこちにあって、写真とおなじように自然を感じる時間が楽しめました。
MMoP の庭のベンチとパラソル
ベンチとパラソル。作品と作品のあいだに休むところがあります。

会場は、東京から新幹線と在来線で1時間半、軽井沢からなら電車で20分のロケーションです。

9月27日まで。1,500円で会期中は何度でも入れるので、夏と初秋の光の違いを見に、二度行く楽しみもあるかもしれません。

夕方の浅間国際フォトフェスティバル2026 PHOTO MIYOTA 入口サイン
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