【個展】エクトル・サモラ(Héctor Zamora)「Emergencia」Albarrán Bourdais(マドリード)

スペインはマドリードのギャラリー「Albarrán Bourdais」で開催されたエクトル・サモラ Héctor Zamoraの個展「Emergencia」にお伺いしました。

Albarrán Bourdaisは直近行われたKiaf Seoul2024にも出展していたギャラリーです

エクトル・サモラ(Héctor Zamora)

エクトル・サモラは、主に建築、空間、社会的な関係性をテーマにしたインスタレーションやパフォーマンス作品を手掛けるメキシコ出身のアーティストです。
彼の作品は、観客が普段持っている空間や社会に対する認識を揺さぶり、物事の見方や存在のあり方に疑問を投げかけることを目的としています。

主なコンセプトやテーマは以下の通りです。

1. 建築と空間の再定義
サモラの作品では、建築的な要素を用いて空間そのものを再定義する試みがよく見られます。彼は建物や構造物を素材として扱い、それを解体、再配置、再構築することで新たな視点を提供します。彼の作品は、日常の建築や物理的空間に対する私たちの認識を変えるよう設計されています。

2. 調和と破壊の緊張
サモラはしばしば、調和と破壊という相反する概念の緊張関係を探求します。たとえば、日常的な物体を使って構築した作品を意図的に壊したり、ランダムな要素を取り入れることで、破壊が新たな美や秩序を生み出すことを表現しています。このプロセスは、偶然性や予測不能な出来事を作品に取り込むことで、新たな形態や表現を生み出す可能性を強調します。

3. 循環と社会的な相互作用
サモラは、作品を通じて人々の相互作用や物の流れを考察します。彼のインスタレーションは、単なる静的な作品ではなく、動きや参加を含むものが多く、観客や参加者が作品の一部として機能することがあります。これにより、社会的な相互作用や集団の動き、協力のプロセスが作品に組み込まれ、より大きな社会的・文化的な意味を持つようになります。

4. 素材とプロセスへのこだわり
サモラは、素材の選択とプロセスに強いこだわりを持っています。彼はしばしば、シンプルで日常的な素材(例えば、レンガ、砂、陶器、プラスチック)を使って壮大な結果を生み出すことに興味を示しています。これにより、通常は見過ごされがちな素材が新たな価値を持つものとして再解釈されます。

5. 社会的・政治的なメッセージ
彼の作品は、単に美的な探求にとどまらず、社会的・政治的なメッセージを込めたものも多く、労働やコミュニティ、権力構造に対する批評を含んでいます。特に、労働者階級や公共空間の利用方法に対する考察が見られることが多いです。

 

エクトル・サモラ「Emergencia」

本展「Emergencia」は、ギャラリー空間の2フロアに渡った展示でした。
メインの作品はパフォーマンスが記録された映像作品で、約30人のパフォーマーが何百ものテラコッタ製の壺を両手で投げ合いながら展開される作品です。

ギャラリーの展示空間から屋外まで空間を横切るように展開されます。パフォーマーは声を上げながら、ラグビー選手のような動作で壺をパスし合います。
楽しそうにも見えるその様子は、テンポが速いために時に落下という結末を生みながら緊張感を含みながら進んでいきます。
パフォーマンスは展覧会の初日にも観衆を前に実施され、数百人ものオーディエンスを巻き込んで開催されたそうです。
筆者も、作家本人からその様子を動画で見せてもらいましたが、とても賑やかな雰囲気で、展覧会を祝福しているような印象を受けました。

展示風景〜1階フロア

展示風景〜2階フロア

展示風景〜2階フロア

エクトル・サモラの作品は、社会的・文化的な文脈を超えた普遍的なテーマを扱いながらも、観客が自らの行動や社会の仕組みについて考えさせる力を持っています。
本展「Emergencia」を通じて表現されたパフォーマンスも、サモラのコンセプトを映し出す内容で、とても強く印象に残った鑑賞体験になりました。

ギャラリーを出るとイベントで壊れた壺の残骸がゴミ捨てられていました。

概要

エクトル・サモラ(Héctor Zamora)
個展「Emergencia」
会場:Albarrán Bourdais(マドリード)
会期:2024年9/12〜10/26
時間:火曜〜金曜10.30am – 7.30pm
土曜 11am – 2pm