【特別出品】 体験型インスタレーション〜高嶺格 「118の除夜の鐘」京都府新鋭選抜展 Kyoto Art for Tomorrow 2021

Kyoto Art for Tomorrow 2021

京都の地で新しい芸術の創造に取り組む新進の若手作家を紹介する展覧会「Kyoto Art for Tomorrow 2021」。
京都文化博物館を会場として、美術系大学や画廊、美術館学芸員をはじめとする有識者から推薦された候補作家の中から、選考委員会で選抜された才能あふれる若手作家の作品が展示される企画です。

「Kyoto Art for Tomorrow 2021」の会場となったのは、京都文化博物館、本館の4階フロアですが、特別出品として別館ホール1階で展示されたのが高嶺格さんの 「118の除夜の鐘」です。

京都文化博物館 別館ホール1階・入場口

高嶺格 「118の除夜の鐘」

高嶺格さんの「118の除夜の鐘」は体験型のインスタレーション作品。
作品が隠されるようにカーテンで仕切られた待合室で順番を待ちます。順番を待つ間にも、前の参加者が体験している音が漏れて来ます。

以下、作品の詳細に触れる「ネタバレ」を含む内容です。

待っている間、掲出されていたステートメントを読みました。118は、安倍元首相が国会でついたとされる「嘘の数」です。

「嘘をつかないこと、それがアーティストの存在意義である」

入場すると、別館ホールの大きな空間に、ひとつの椅子が置かれていました。

展示風景

政治家が座るような風格のある椅子。座面はふかふかのクッション。

椅子に座ると、スタッフの方が黒い袋を持ってきて、鉄球をひとつ選ぶよう促されます。
中に入っている3つの小さな鉄球の中から、自分の意思でひとつを選択し、スタッフに手渡します。
手品に良くあるような参加者自身が確認する行為によって、作品との関係性が生まれます。

手渡した鉄球は、スタッフによって所定の場所に運ばれます。

展示風景

鉄球は磁石でつり上げられ、一番上のパイプに運ばれます。

吊り上げられた銀玉は、受け皿に移され、パイプの中に入っていきます。

徐々に暗転していき、銀の玉が走って行く音だけが響きます。

銀の玉はパイプ管に落とされ、徐々に速度を上げながら管の中を進んで行く音だけが空間にこだまします。

照明は徐々に落とされ、暗転していきます。

椅子を取り囲むように配置された金属製のパイプ管

椅子に座った自分の周りを、グルグルと取り囲むように進んで行く音だけが響きます。かなり大きな音でした。
音の広がりとスピードは、小さな嘘が徐々に大きく広がっていったとされる安倍首相の有り様を重ねているように感じられました。

グルグルと周回する鉄球がそろそろ終わりに近づいたと思いつつも、鉄球の転がる音声は一向に止みません。
自分が見ているパイプ管の周回数を超え、転がり続けているのです。
ここで、鑑賞者は「転がり続ける鉄球の音はフェイクで、単なるスピーカーから流されていただけの音声」だということに気がつかされます。

最後には、ホーン型スピーカーの中から安倍首相の嘘の答弁音声が聞こえ、除夜の鐘が鳴ると同時に鉄球が自分に向かって落ちてきました。鉄球は音声で伝わってきたこれまでのスピード感から一転、ヨタヨタと鈍い速度で鑑賞者にすがりついてくるように感じられました。

また、タイトルには除夜の鐘とありますが、最後の演出を重ねて受け止めてみると、お笑い番組で使われるドラのようにも聞こえました。加速する鉄球の音声は恐怖的であり、最後のオチは喜劇的でもあり、深みのある鑑賞体験となりました。

自分の目の前に落ちてきた鉄球。パイプ管を進んできた摩擦によって、熱を帯びたように温かいぬくもりが感じられました。

展示風景

安倍首相に絡めた作品として、最後にはクスッと笑える演出などもありながら、嘘やフェイクを知らずに受け止めてしまっているかも知れぬ、私たちにも問いかけている作品だと感じました。

概要

Kyoto Art for Tomorrow 2021
京都府新鋭選抜展【特別出品】

高嶺格
「118の除夜の鐘」

会場:京都文化博物館 別館ホール1階
会期:2021年1月23日(土)~2月7日(日)
時間:10:00~19:30
設営/設計:dot architects(ドットアーキテクツ)
プログラム:濱哲史
機構:堀尾寛太、三原総一郎
設営協力:木村剛士
備考:入場無料